燕と王子(有島武郎)のあらすじ・登場人物
金の王子と心やさしい燕
- 幻想
- 文字数
- 9,344字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
有島武郎が明治41、2年ごろ、妹の長男の病気見舞いとして書き送った童話。オスカー・ワイルドの「幸福な王子」を翻案したもので、有島の没後、1926年(大正15年)4月に雑誌『婦人の国』に掲載された。エジプトのナイル川から夏のライン川のほとりへ渡ってきた一羽の燕が、仲間が南へ帰ったあとも仲よしの葦と別れがたくて残り、遅れて旅立った途中の古い町で、金色の王子の像の肩に宿る。「おかあ様に地図を見せておもらいなさい」と子どもに語りかける口調で書かれ、王子が助ける人々の顔ぶれなどに原作との違いがある。
あらすじ
ナイル川のほとりに住む燕の群れが、ある夏ドイツのライン川へやってきた。その中の一羽はやさしい形の葦と仲よくなり、秋になって仲間が南へ帰っても残っていた。枯れかけた葦は、霜がきたら死んでしまう、来年また会おうと燕を諭し、燕はひとりで南へ旅立つ。ある寒い夕方、古い町に着いた燕は、若くして亡くなった王子を記念して建てられた、青銅に金の延べ板をかぶせた立像の肩で夜を明かす。翌朝、王子はオパールの瞳で燕を見て呼び止め、自分の体から金をはがして、貧しい年老いた寡婦の窓に投げ入れてくれと頼む。翌日は、讒言で扶持を失った家来の遺児である乞食の兄妹へ、その次の日は目を病む画家へと、燕は王子に頼まれるまま金を運び、南へ帰れない日が続く。金を失って見る影もなくなった王子は、燕にもう帰れと言うが、そこへ、家宝の名玉を盗まれたため結婚できずに嘆く若い武士と乙女が現れる。その名玉こそ王子の瞳のオパールだった。王子に命じられて燕は瞳を抜き取って二人に届け、翌日、町じゅうが二人の婚礼に沸くのを、目の見えなくなった王子に一つ一つ話して聞かせる。やがて霜がおりると、王子は燕に、今年死ねば来年会えないから早くナイルへ帰れと言い聞かせ、燕は来年の再会を約して泣く泣く南へ去る。冬になり、真っ黒にすすけて目もつぶれた王子の像を見た町の人々は、クリスマスの前にこれを引き倒し、溶かして寺の鐘に造り変えた。翌年、燕は王子を訪ねて町を探しまわったが、影も形もなかった。それでも今もこの町では、夕暮れどきになると寺の塔から澄んだ鐘の音が響き、悪い者を町から追い払うという。
登場人物
- 燕 ナイル川から渡ってきた燕。仲間が帰ったあとも残る
- 王子 若くして亡くなった王子の金色の立像。オパールの瞳を持つ
- 葦 ライン川のほとりの一本の葦。燕と仲よくなる
- 若い武士 家宝の名玉を盗まれて結婚できずにいる若者
- 乙女 若い武士との結婚を望む娘
冒頭部(原文より)
燕という鳥は所をさだめず飛びまわる鳥で、暖かい所を見つけておひっこしをいたします。今は日本が暖かいからおもてに出てごらんなさい。羽根がむらさきのような黒でお腹が白で、のどの所に赤い首巻きをしておとう様のおめしになる燕尾服の後部みたような、尾のある雀よりよほど大きな鳥が目まぐるしいほど活発に飛び回っています。このお話はその燕のお話です。
「燕と王子」有島武郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし今でもこの町に行く人があれば春でも夏でも秋でも冬でもちょうど日がくれて仕事が済む時、灯がついて夕炊のけむりが家々から立ち上る時、すべてのものが楽しく休むその時にお寺の高い塔の上から澄んだすずしい鐘の音が聞こえて鬼であれ魔であれ、悪い者は一刻もこの楽しい町にいたたまれないようにひびきわたるそうであります。めでたしめでたし。
「燕と王子」有島武郎(青空文庫)
原文を読む
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