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鶏(森鴎外)のあらすじ・登場人物

小倉の石田少佐と別当

  • 心理

森鴎外 1909年(明治42年)8月 「スバル」

文字数
18,210字
読了目安
約36分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 福岡県

この作品について

小倉に赴任した参謀少佐・石田小介の、着任から夏の終わりまでの暮らしを淡々と追う。もらい受けた一羽の鶏をきっかけに、下男の別当が主人の米も味噌も漬物も自分の物と混ぜて平然と使っていることが露わになる。鴎外自身の小倉時代の体験が下敷きにあり、「独身」「二人の友」とあわせて小倉三部作と呼ばれる。ごまかしを承知のうえで動じない主人公の人物像が、簡潔な文体と土地の風物のなかに浮かび上がる。

あらすじ

六月二十四日、参謀少佐となった石田小介が小倉に着任する。鍛冶町の借家に落ち着き、婆やのお時、東京から連れてきた別当の虎吉、従卒の島村と、戦地と変わらない簡素な暮らしを始めた。ある日、戦地で世話をした元輜重輸卒の麻生が立派な雄鶏を一羽持ってくる。食うのではないと言って生かしておき、石田は自分でも牝鶏を一羽買ってきたが、いつのまにか別当が自分の牝鶏を混ぜて飼い、産んだ卵はすべて自分のものにしてしまう。婆やは声をひそめてそれを告げるが、石田は「己は玉子が食いたいときには買うて食う」と取り合わない。やがて鶏が隣家の畑を荒らし、生垣の向こうから女が延々と悪態をつくが、石田は微笑を浮かべたまま黙って聞いている。婆やが風呂敷包みで台所の物を持ち出していると友人から知らされると、石田は静かに下女を替えた。新しく来た小女の春が語ったのは、別当が自分の米を主人の米櫃に入れて勝手に量り出し、味噌も醤油も漬物も割木も七輪も同じ流儀で主人の物を使っているという事実だった。石田は始めて目が開いたような心持ちになり、系統立てて発展させたその経理法にほとんど敬意さえ覚える。翌日、新しい米櫃や漬物桶を買い揃えると、古い道具は中身の入ったまま、鶏も雛もみな虎吉にやってしまい、暇を出すとも言わない。その晩、旭町の花火を眺めていると、春が「別当さんが鶏を縛って持って行きよります」と告げた。石田は「雛なんぞはいらんと云え」と答え、やはり花火を見ていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

石田小介が少佐参謀になって小倉に着任したのは六月二十四日であった。  徳山と門司との間を交通している蒸汽船から上がったのが午前三時である。地方の軍隊は送迎がなかなか手厚いことを知っていたから、石田はその頃の通常礼装というのをして、勲章を佩びていた。故参の大尉参謀が同僚を代表して桟橋まで来ていた。  雨がどっどと降っている。これから小倉までは汽車で一時間は掛からない。川卯という家で飯を焚かせて食う。夜が明けてから、大尉は走り廻って、切符の世話やら荷物の世話やらしてくれる。  汽車の窓からは、崖の上にぴっしり立て並べてある小家が見える。どの家も戸を開け放して、女や子供が殆ど裸でいる。中には丁度朝飯を食っている家もある。仲為のような為事をする労働者の家だと士官が話して聞せた。  田圃の中に出る。稲の植附はもう済んでいる。おりおり蓑を着て手籠を担いで畔道をあるいている農夫が見える。

「鶏」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

虎吉は呆れたような顔をして、石田の云うことを聞いていて、石田の詞が切れると、何か云いそうにした。石田はそれを言わせずにこう云った。 「いや。お前の都合はあるかも知れないが、己はそう極めたのだから、お前の話を聞かなくても好い。」  石田はついと立って奥に這入った。虎吉は春に、「旦那からお暇が出たのだかどうだか、伺ってくれろ」と頼んだ。石田は笑って、「己はそんな事は云わなかったと云え」と云った。  その晩は二十六夜待だというので、旭町で花火が上がる。石田は表側の縁に立って、百日紅の薄黒い花の上で、花火の散るのを見ている。そこへ春が来て、こう云った。 「今別当さんが鶏を縛って持って行きよります。雛は置こうかと云いますが、置けと云いまっしょうか。」 「雛なんぞはいらんと云え。」  石田はやはり花火を見ていた。

「鶏」森鴎外(青空文庫)

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