野のはくちょう(アンデルセン)のあらすじ・登場人物
十一羽の白鳥と末の妹
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 20,326字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
アンデルセンが1838年10月、「しっかり者のすずの兵隊」と同じ冊子(『子どものための童話集』新集第1冊)で発表した童話(原題「De vilde Svaner」)を、楠山正雄が訳したもの(同和春秋社『新訳アンデルセン童話集』第一巻)。デンマークの民話集に載った「十一羽の白鳥」が着想源とされ、グリムの「六羽の白鳥」とも同じ型に属する。十一人の王子と末の妹エリーザは、父王が迎えた悪いお妃によって引き離され、王子たちは野の白鳥に変えられてしまう。森をさまようエリーザの旅、海の上の小さな岩、雲が見せるまぼろしの城など、自然の情景を細やかに描きこんだアンデルセンの童話のなかでも長めの一編で、日本では「白鳥の王子」の題でも親しまれている。
あらすじ
遠い国の王さまに十一人の王子と娘のエリーザがいたが、王さまが迎えた悪いお妃は、エリーザを田舎の百姓夫婦にあずけ、王子たちを野の白鳥に変えて追い出す。十五になって城へ戻ったエリーザも、お妃に顔を汚されて父に見分けてもらえず、兄たちを捜しに城を抜け出す。森で出会ったおばあさんに金のかんむりをのせた十一羽の白鳥のことを聞き、海辺で日没に人間の姿へ戻った兄たちと再会する。兄たちは昼は白鳥、夜だけ人間に戻り、海のかなたの国に住んでいた。エリーザは兄たちが編んだ網に乗せられて海を越え、夢に現れた妖女から、魔法を解く方法を教わる。イラクサを手で摘み、はだしで踏んで麻をとり、袖の長いくさりかたびらを十一枚編むこと、そのあいだ一言でも口をきけば兄たちの命はないということだった。エリーザが手を火ぶくれにしながら編みはじめたところへ狩りに来たこの国の王さまが、その美しさにひかれて城へ連れ帰り、お妃にする。大僧正だけは森の娘を魔女だと疑い、夜ごと墓地へイラクサを摘みに行くエリーザの姿を王さまに見せる。エリーザは魔女として火あぶりの刑に決まるが、牢でも最後の一枚を編みつづける。刑場へ向かう車の上で人々がかたびらを引き裂こうとしたとき、十一羽の白鳥が舞いおり、エリーザがかたびらを投げかけると兄たちは人間の姿に戻った。片袖が足りなかった末の兄だけは片腕が白鳥の羽根のままだった。口をきけるようになったエリーザは無実を告げて気を失い、積まれた薪には赤いばらが咲いた。王さまがその白い花をエリーザの胸にのせると彼女は目をさまし、鐘の鳴るなか、婚礼の行列が城へ向かった。
登場人物
- エリーザ 王の娘。白鳥にされた十一人の兄を救うため、口をきかずにイラクサのかたびらを編む
- 十一人の王子 まま母の魔法で、昼は野の白鳥になる兄たち
- お妃(まま母) 王子たちを白鳥に変え、エリーザの姿を汚す
- 王さま 狩りの途中でエリーザを見そめ、お妃に迎える
- 大僧正 エリーザを魔女だと疑い、王さまに告げる
- 妖女 夢に現れ、魔法を解く方法を教える
冒頭部(原文より)
ここからは、はるかな国、冬がくるとつばめがとんで行くとおい国に、ひとりの王さまがありました。王さまには十一人のむすこと、エリーザというむすめがありました。十一人の男のきょうだいたちは、みんな王子で、胸に星のしるしをつけ、腰に剣をつるして、学校にかよいました。金のせきばんの上に、ダイヤモンドの石筆で字をかいて、本でよんだことは、そばからあんしょうしました。 この男の子たちが王子だということは、たれにもすぐわかりました。いもうとのエリーザは、鏡ガラスのちいさな腰掛に腰をかけて、ねだんにしたらこの王国の半分ぐらいもねうちのある絵本をみていました。 ああ、このこどもたちはまったくしあわせでした。でもものごとはいつでもおなじようにはいかないものです。
「野のはくちょう」アンデルセン(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そうです。エリーザに罪はありません。」と、いちばんうえのおにいさまがいいました。 そこで、このおにいさまは、これまであったことをのこらず話しました。話しているあいだに、なん百万というばらの花びらがいちどににおいだしたような香りが、ぷんぷん立ちました。仕置柱のまえにつみあげた火あぶりの薪に、一本一本根が生えて、枝がでて、花を咲かせたのでございます。そこには赤いばらの花をいっぱいつけた生垣が、高く大きくゆいまわされて、そのいちばんうえに、星のようにかがやく白い花が一りん吹いていました。その花を王さまはつみとって、エリーザの胸にのせました。するとエリーザはふと目をさまして、心のなかは平和と幸福とでいっぱいになりました。 そのとき、のこらずのお寺の鐘がひとりでに鳴りだしました。小鳥たちがたくさんかたまってとんで来ました。それから、それはどんな王さまもついみたこともないようなさかんなお祝の行列が、お城にむかって練っていきました。
「野のはくちょう」アンデルセン(青空文庫)
名文
王子たちは十一羽のみごとな野の白鳥になったのです。きみょうななき声をたてて、このはくちょうたちは、ご殿の窓をぬけて、おにわを越して、森を越して、とんでいってしまいました。
継母の呪いで十一人の王子が白鳥に変えられる場面。アンデルセン『野のはくちょう』の物語はここから動きだす。
おまえさんがそのしごとをはじめたときから、それができ上がるまで、それはなん年かかろうとも、そのあいだ、ちっとも口をきいてはならないのですよ。
兄たちを救う方法を告げる妖女の言葉から。イラクサで衣を編むあいだ沈黙を守るという、エリーザに課された試練の核心。
原文を読む
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