踊る一寸法師(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
虐げられた小人の暗い情念
- 怪奇
- 文字数
- 7,734字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1926年(大正15年)、「新青年」に発表した短編。旅回りの一座に身を置く一寸法師「緑さん」が、酒宴の席で同僚たちに嬲られ、辱められる。人好きのする笑みの下に抑えつけられた屈辱と暗い情念を秘めた小人を描く、グロテスクで忘れがたい一編である。
あらすじ
旅回りの見世物一座の酒宴の席で、一寸法師の「緑さん」は、酔った同僚たちのなぶりものにされていた。優しげな声で呼ばれ、いつもの通り好人物らしく大きな口を曲げてニヤニヤと笑ってみせる小人だが、その卑屈な笑顔の下には、日ごろの辱めに対する、抑えつけられた暗い情念が渦巻いていた。座員たちの残酷な戯れがエスカレートしていくなかで、緑さんの胸に鬱積したものが、ついにおぞましい形をとって噴き出す。物語の結末——水のような月光のもと、一人の黒い影が、下げていた丸い西瓜のようなものを両手で口へ運び、地団駄を踏みながら、それに喰いついては離し、喰いついては離し、さも楽しげに踊り続ける。その丸いものからも、影自身の唇からも、濃い黒い液体がボトリボトリと垂れているのが、はっきりと見分けられた——。虐げられた者の暗い情念を、鮮烈なグロテスク・イメージで描き切った、乱歩怪奇短編の一編である。
登場人物
- 緑さん 旅回りの一座の一寸法師
冒頭部(原文より)
「オイ、緑さん、何をぼんやりしてるんだな。ここへ来て、お前も一杯御相伴にあずかんねえ」 肉襦袢の上に、紫繻子に金糸でふち取りをした猿股をはいた男が、鏡を抜いた酒樽の前に立ちはだかって、妙に優しい声で云った。 その調子が、何となく意味あり気だったので、酒に気をとられていた、一座の男女が一斉に緑さんの方を見た。
「踊る一寸法師」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
男は、さげていた丸いものを、両手で彼の口の所へ持って行った。そして、地だんだを踏みながら、その西瓜の様なものに食いついた。彼はそれを、離しては喰いつき、離しては喰いつき、さも楽しげに踊りつづけた。 水の様な月光が、変化踊の影法師を、真黒に浮き上らせていた。男の手にある丸い物から、そして彼自身の脣から、濃厚な、黒い液体が、ボトリボトリと垂れているのさえ、はっきりと見分けられた。
「踊る一寸法師」江戸川乱歩(青空文庫)
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