扇野(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
枯野の扇に託す人の情
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 33,740字
- 読了目安
- 約1時間7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1954年(昭和29年)、「面白倶楽部」に発表した時代小説。一枚の扇に冬の武蔵野の枯野を描くことになった絵師・栄三郎と、家老の長男・石川孝之介、そして「おけい」という女性。扇に描かれた枯野の景色に重ねて、人の心の哀しみと、忘れがたい情を描いた一編である。
あらすじ
「うんいいね、静かな趣きだ」——藩の家老・石川舎人の長男である石川孝之介は、脇にいる角屋金右衛門にそう頷いてみせる。お上(藩主)が冬の武蔵野をたいそう好むというので、金右衛門が古渓先生に頼んで、そういう画題の扇を用意させたのだ。だが、その絵を実際に手がける絵師・栄三郎は、家老の子らしい威厳をまといながら意地の悪い光を眼にたたえた孝之介を、心の中でせせら笑っていた。一枚の扇に描かれる、冬の武蔵野の枯野——その枯れた景色に重ねて、栄三郎の胸には、「おけい」という女性への思いが去来する。人と人のあいだの、口には出せぬ心のやりとりと、忘れがたい情。物語の結び、栄三郎は眼をつむって思う。「おけいの心は、この枯野の扇子のように、いつまでも痛く記憶に残るだろうな」。「有難う、おけいさん……いつまでも忘れないよ」——ひそめた声のつぶやきに応えるように、広縁の下でかねたたきが鳴いていた。枯野の扇に人の情の哀しみを託した、山本の一編である。
登場人物
- 栄三郎 扇に枯野を描く絵師
- 石川孝之介 家老の長男
- おけい 栄三郎が心に思う女性
冒頭部(原文より)
「うんいいね、静かな趣きだ」 石川孝之介はそう云って、脇にいる角屋金右衛門に頷いた。 ――なにを云やあがる。 栄三郎は心の中でせせら笑った。
「扇野」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
――おけいの心は、この枯野の扇子のように、いつまでも痛く記憶に残るだろうな。 栄三郎はそう思って眼をつむった。 「有難う、おけいさん」と彼はひそめた声で云った、「――いつまでも忘れないよ」 広縁の下あたりで、かねたたきが鳴いていた。
「扇野」山本周五郎(青空文庫)
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