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お守り(山川方夫)のあらすじ・登場人物

団地に住む無数のぼく

  • 社会
  • ミステリ

山川方夫 1960年(昭和35年)4月 「北海道新聞」

文字数
6,622字
読了目安
約13分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

銀座で四、五年ぶりに会った友人の関口が、酒の途中でふいに「君、ダイナマイトは要らないかね?」と切り出す——山川方夫が新聞の日曜版に書いた一編。霧の夜、団地の同じ階段を上って自分の部屋に吸いこまれていく「もう一人のぼく」を見てしまった男の話である。同じ規格の部屋、同じ規格の生活。無数の「ぼく」から自分を区別する何かを、彼はどうしても手に入れねばならなかった。

あらすじ

小料理屋の二階で、建築会社につとめる旧友の関口が突然そういい出した。冗談だと思って笑う「僕」に、彼はしゃべりはじめる。——念願の団地アパートに当選して半年、彼は奇妙ないらだたしさを感じはじめていた。きっかけは霧の深い夜、宴会帰りに前を歩いていた男だ。同じソフト、同じ折詰め、同じ足どり。その男は彼と同じE棟の同じ階段を上り、彼の部屋の扉をたたき、疲れた夫の姿でその中へ吸いこまれていった。扉に耳をつけると、妻は「二郎さん」といつものように呼び、疲れたときの彼の声がちゃんと相槌を打っている。棟を一つ間違えて上がりこんだその男は、黒瀬次郎という土木技師だった。彼が二郎で相手が次郎、妹が邦子で従姉妹がクニ子、どちらも妻と二人暮らし。……関口を重く苦しめたのは、扉を開けるまで妻も男もまちがいに気づかなかったという事実だった。同じ規格の部屋に住み、同じ日に喧嘩をし、上の階でも下の階でも同じ時刻に水を流す。生活まで規格化されているのなら、自分は玩具売場にならぶ兵隊の一つでしかないのではないか。ぼくを彼らから区別するどんな根拠がある? 名前だけじゃないのか?——そうして手に入れたのが、この「お守り」だと関口はいい、革鞄から油紙の包みを出した。本物のダイナマイトが四本。いざとなればいつでも自分もお前たちも吹きとばせる、その秘密の力を握っていることこそが自分の特殊性なのだ、と彼はいう。「もう要らない」ともいった。理由をたずねる「僕」に、彼はその日の夕方、団地の近くを走るバスの中でダイナマイトが爆発し、三人が即死したというラジオのニュースを語りはじめる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ――君、ダイナマイトは要らないかね?  突然、友人の関口が僕にいった。四、五年ぶりでひょっこり銀座で逢い、小料理屋の二階に上りこんで飲んでいる途中だった。  関口とは、高校までがいっしょだった。いま、彼は建築会社につとめている。だからダイナマイトを入手するのもさほど難しくはないだろうが、いかに昔から変わり者だった彼にしても、その発言はちょっと突飛だった。

「お守り」山川方夫(青空文庫)

末尾部(原文より)

 油紙の包みをゆっくり鞄にしまいながら、関口は僕の目を見ずにいった。  ――そういやあ、たしかに、いつもやつもさも大切そうに鞄を抱えこんで歩いていたよ。そしてぼくを避けてた。きっとやつのほうでもぼくを憎んでたんだろうな。やつもまた、お守りが要ったんだよ。  ――なんの話だ?  と、僕はいった。  関口は、ごろりと畳に横になって、どこか嘆息するような声でいった。  ――いやね、ラジオでいってたんだが、そのダイナマイトは、しらべたら、即死した一人、黒瀬次郎というある土木技師の鞄に入れられてあったものだったというんだ。

「お守り」山川方夫(青空文庫)

原文を読む

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