狼森と笊森、盗森(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
ここへ畑起こしてもいいかあ
- 幻想
- 文字数
- 5,576字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
生前に刊行された唯一の童話集「注文の多い料理店」に収められた九篇のうちの一つ。小岩井農場の北に並ぶ四つの森——狼森・笊森・黒坂森・盗森という奇妙な名の由来を、黒坂森のまんなかの巨きな巌が語って聞かせる形で進む。岩手山の噴火で埋まった野に草木が生え、やがて四人の百姓が入ってきて開墾を始める。人と森とが「ここに置いてくれ」「いいぞ」と呼び交わしながら折り合いをつけてゆく語り口に、賢治の自然観がよく表れている。
あらすじ
小岩井農場の北に、狼森・笊森・黒坂森・盗森という四つの黒い松の森が並んでいる。その名の由来を知っているのは自分だけだと、黒坂森のまんなかの巨きな巌が語りはじめる。ずっと昔、岩手山が何度も噴火して灰で埋まったあと、草が生え木が生えて四つの森ができた。ある秋の日、けらを着た四人の百姓が斧や鉈を持って野原にやってきて、「ここへ畑起こしてもいいかあ」と叫ぶ。森は「いいぞお」と答え、こうして開墾が始まった。やがて家が建ち、子どもが生まれる。ところがある日、子どもが二人行方知れずになり、みんなで狼森へ探しに行くと、狼たちが火のまわりで子どもらを遊ばせていた。次には農具が消えて笊森へ、そして冬のある朝、納屋の粟がそっくり無くなって盗森へと出かけてゆく。盗森の主は身に覚えがないと言い張るが、岩手山の大男が現れて「盗森が粟餅を作ってみたかっただけだ」と取りなし、粟は納屋に戻っていた。以来、村の人々は毎年冬のはじめに粟餅をこしらえ、四つの森へ持って行くようになった。
登場人物
- 四人の百姓 野原に入って開墾を始める、けらを着た男たち
- 黒坂森の巌 四つの森の由来を語って聞かせる
- 狼森の狼たち 行方知れずの子どもを火のまわりで遊ばせていた
- 盗森の主 粟を盗んだと疑われる
- 岩手山 大男の姿で現れ、盗森のために取りなす
冒頭部(原文より)
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がついたのか、それをいちばんはじめから、すっかり知っているものは、おれ一人だと黒坂森のまんなかの巨きな巌が、ある日、威張ってこのおはなしをわたくしに聞かせました。 ずうっと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。その灰でそこらはすっかり埋まりました。このまっ黒な巨きな巌も、やっぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのだそうです。
「狼森と笊森、盗森」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
」 そして岩手山は、またすましてそらを向きました。男はもうその辺に見えませんでした。 みんなはあっけにとられてがやがや家に帰って見ましたら、粟はちゃんと納屋に戻っていました。そこでみんなは、笑って粟もちをこしらえて、四つの森に持って行きました。 中でもぬすと森には、いちばんたくさん持って行きました。その代り少し砂がはいっていたそうですが、それはどうも仕方なかったことでしょう。 さてそれから森もすっかりみんなの友だちでした。そして毎年、冬のはじめにはきっと粟餅を貰いました。 しかしその粟餅も、時節がら、ずいぶん小さくなったが、これもどうも仕方がないと、黒坂森のまん中のまっくろな巨きな巌がおしまいに云っていました。
「狼森と笊森、盗森」宮沢賢治(青空文庫)
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