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猟奇歌(夢野久作)のあらすじ・登場人物

殺すくらゐ 何でもない

  • 怪奇

夢野久作 1927年(昭和2年)8月 「探偵趣味」

文字数
7,550字
読了目安
約15分
表記
新字旧仮名

この作品について

「ドグラ・マグラ」の夢野久作が、探偵雑誌に十年近くにわたって連載した異色の短歌群。三行書きの自由な形式で、殺意・偏執・倒錯・自己嫌悪といった心の暗部だけを詠みつづける。犯罪小説でも告白でもない、日常のなかにふと湧く狂気そのものを結晶させた、日本の短歌でも類のない作品である。

あらすじ

「殺すくらゐ 何でもない/と思ひつゝ人ごみの中を/濶歩して行く」——巻頭の一首から、この歌群の異様さははっきりしている。ある名を丁寧に書いてから抹殺して焼き捨てる心、女の写真の眼玉に赤インキを注射してみること、応接間で夫人をくびり殺して捕われてみたいという妄想。「わが胸に邪悪の森あり/時折りに/啄木鳥の来てたゝきやまずも」。よく切れる剃刀を見て鏡の前で狂人のように微笑み、煙突をのぼる人に落ちればいいがと祈り、人体のどこに針を刺せば即死するかを医師に尋ねてみる。やがて視点は入れ替わり、殺される側、死んでゆく側からも歌われる——「一番に線香を立てに来た奴が/俺を…………」「若い医者が/俺の生命を預つたと云うて/ニヤリと笑ひ腐つた」。囚人、行路病人、殺人狂、フロイト、北極から帰らぬ人々——脈絡なく現れる人物たちが、それぞれの一瞬の狂気を差し出す。「殺人狂が/針の無い時計を持つてゐた/殺すたんびにネヂをかけてゐた」。そして最後は、往来のまん中で歯噛みしている石ころを蹴とばし、一里ばかり撫でまわして懐かしくなったその石ころを、ふと池に投げ込む——という奇妙に静かな一首で閉じられる。

冒頭部(原文より)

殺すくらゐ 何でもない と思ひつゝ人ごみの中を 濶歩して行く ある名をば 叮嚀に書き ていねいに 抹殺をして 焼きすてる心 ある女の写真の眼玉にペン先の 赤いインキを 注射して見る

「猟奇歌」夢野久作(青空文庫)

末尾部(原文より)

石コロが広い往来の中央で 歯噛みして居る ポンと蹴つて遣る 一里ばかり撫でまはして来た なつかしい石コロを フト池に投げ込む

「猟奇歌」夢野久作(青空文庫)

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