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死屍を食う男(葉山嘉樹)のあらすじ・登場人物

同室の彼は夜ごと消える

  • 怪奇

葉山嘉樹 1927年(昭和2年)4月 「新青年」

文字数
7,482字
読了目安
約15分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1927年(昭和2年)、探偵小説誌「新青年」に発表された怪奇短編。労働文学の書き手として知られる葉山嘉樹の作品のなかでは異色の一編である。山中の中学の寄宿舎で、たった二人きりの部屋に暮らす五年生の安岡と深谷。溺死した野球部員の墓がある夜ごと、深谷は寝息をうかがってから部屋を抜け出していく。知らないほうがよいこともある——冒頭でそう断ってから語り出される。

あらすじ

その中学は山の中にあった。運動場の一方は神社、一方は国分寺に続き、もう一方は毎年一人ずつ生徒が溺死するならわしの湖に面している。湖の北岸は屠殺場、南岸は墓地。近隣に中学が七つも新設されたせいで寄宿舎はがらんとし、二十畳の部屋に卒業期の安岡と深谷の二人だけが残された。十月の末、野球部の一人が湖に潜ったまま浮かんでこなかった。溺死した「セコチャン」は湖を見下ろす墓地に葬られ、以来、安岡は広すぎる部屋の寂しさに神経を細らせていく。ところが、青白く痩せて誰よりも臆病そうな深谷のほうは、寝台に入るとすぐ軽い鼾をかいて眠るのだった。七日目の夜、眠りかけた安岡は顔のあたりに人の体温を感じる。深谷が寝息をうかがい、電灯をつけて部屋を出ていったのだ。二時間も三時間も戻らない。翌晩、安岡は眠ったふりを続け、風のように廊下の窓から校庭へ飛び出す深谷のあとを追った。街道を抜け、湖に沿ってうねる道を越え、たどり着いたのは墓地だった。生け垣の外から腹這いで覗いた安岡の目に、筆にも紙にも表しがたい情景が映る。翌朝、深谷は静かに言った。「きみの口の周りは、まるで死屍でも食ったように、泥だらけだよ」。

登場人物

冒頭部(原文より)

 いろんなことを知らないほうがいい、と思われることがあなた方にもよくあるでしょう。  フト、新聞の「その日の運勢」などに眼がつく。自分が七赤だか八白だかまるっきり知らなければ文句はないが、自分は二黒だと知っていれば、旅行や、金談はいけない、などとあると、構わない、やっつけはするが、どこか心の隅のほうにそいつが、しつっこくくっついている。

「死屍を食う男」葉山嘉樹(青空文庫)

末尾部(原文より)

 こう言って、切れ切れな言葉で彼は屍を食うのを見た一場を物語った。そして忌まわしい世に別れを告げてしまった。  その同じ時刻に、安岡が最期の息を吐き出す時に、旅行先で深谷が行方不明になった。  数日後、深谷の屍骸が渚に打ち上げられていた。その死体は、大理石のように半透明であった。

「死屍を食う男」葉山嘉樹(青空文庫)

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