龍と詩人(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
龍と若き詩人が語る歌の源
- 幻想
- 文字数
- 2,367字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 旧字旧仮名
この作品について
宮沢賢治が仏教説話風の舞台を借りて書いた短い童話。洞に封じられた老いた龍チャーナタと、龍の歌を知らぬまま詩の競べで賞賛された青年詩人スールダッタが、詩とは誰のものか、許しとは何かを語り合う。会話の大半が丸括弧に包まれ、龍と詩人の問答が静かに進む。詩作や芸術の源泉をめぐる思索が凝縮された小品で、賢治作品のなかでは知られる機会の少ない一編である。
あらすじ
龍のチャーナタは、罪のために十万年の間、海辺の洞に封じられている老いた龍である。朝日の差す洞の中で赦しを祈っていると、洞の外に瓔珞をつけた立派な青年が現れ、許しを乞いにきたと言う。青年スールダッタは前日の詩の競べで大いに称賛されたが、帰り道に、自分が歌ったのは洞の龍の歌を盗み聞きしたものだとささやく声を聞いてしまったのだった。彼は洞のま上の岬で毎日考え歌い、まどろみのなかで聞いたような気がするあの歌を、龍に詫びにきたのである。龍は、あの歌はおまえの歌でありわれわれの歌でもあると答える。そのとき龍も詩人も雲であり風であったのだから、誰が許し誰が許されるわけでもない、と。龍は小さな赤い珠を吐いて贈る。それは埋もれた経を尋ねて海に入るときのための珠であった。スールダッタは母に仕え、母が天に生まれたら海に入って大経を探そうと約し、日ごとに洞へ通って新しい世界の造営を語り合うと誓う。詩人は心あかるく去り、龍は深い水に身を潜めて懺悔の偈を唱えはじめる。
登場人物
- チャーナタ 罪のために洞に封じられている老いた龍。詩人の訪れを受け、小さな赤い珠を贈る
- スールダッタ 詩の競べで称賛された若い詩人。龍の歌を盗んだのではと思い悩み、詫びにくる
- アルタ 競べの場でスールダッタを賞賛し、東の国へ去った詩人(会話に登場)
冒頭部(原文より)
龍のチャーナタは洞のなかへさして來る上げ潮からからだをうねり出した。 洞の隙間から朝日がきらきら射して來て水底の岩の凹凸をはっきり陰影で浮き出させ、またその岩につくたくさんの赤や白の動物を寫し出した。 チャーナタはうっとりその青くすこし朧ろな水を見た。それから洞のすきまを通して火のやうにきらきら光る海の水を淺黄いろの天末にかかる火球日天子の座を見た。
「龍と詩人」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
スールダッタは心あかるく岩をふんで去った。 龍のチャーナタは洞の奧の深い水にからだを潛めてしづかに懺悔の偈をとなへはじめた。
「龍と詩人」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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