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サガレンと八月(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物

風と波が問いかける北の浜

  • 幻想

宮沢賢治 

文字数
4,311字
読了目安
約9分
表記
新字新仮名

この作品について

賢治が妹トシの死の翌年、サガレン(樺太)へ旅した経験に根ざす未完の童話。旅の途中の「私」が、オホーツク海の浜で風や波のことばを聞く導入のあと、海辺の少年タネリの物語へとつながる。生前に発表されなかった草稿で、のちの『タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった』との関係から注目される。自然の音が人にものを問いかけてくる、賢治らしい感覚が前面に出た断章。

あらすじ

西の山地から吹いてくる風は、浜に立つ「私」に「何の用でここへ来たの」と繰り返し問いかける。内地の農林学校の助手で標本を集めに来たのだと答えても、風はことばを一語ずつ持ち去ってしまう。拾った小さな貝殻を雑嚢に入れると、波は「貝殻なんぞ何にするんだ」と叫ぶ。何かにしなければならないわけではないと言い返すと、波は、人間ならきっと何かにしなければ済まないと思っていた、と謙遜して答え、私は顔を赤らめる。オホーツク海の渚で風の物語を聴くうちに、それが風の話か自分の話かも分からなくなる。そこから場面は変わり、はだしのタネリが母のもとを出て浜へ孔石を拾いに行く。くらげの落ちた浜を歩くタネリは、やがて奇妙な世界へ入り込むが、物語は原稿の空白で途切れる。

冒頭部(原文より)

「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、何かしらべに来たの。」  西の山地から吹いて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着をぱたぱたかすめながら何べんも通って行きました。 「おれは内地の農林学校の助手だよ、だから標本を集めに来たんだい。」私はだんだん雲の消えて青ぞらの出て来る空を見ながら、威張ってそう云いましたらもうその風は海の青い暗い波の上に行っていていまの返事も聞かないようあとからあとから別の風が来て勝手に叫んで行きました。

「サガレンと八月」宮沢賢治(青空文庫)

末尾部(原文より)

 タネリは小さくなってしゃがんでいました。気がついて見るとほんとうにタネリは大きな一ぴきの蟹に変っていたのです。それは自分の両手をひろげて見ると両側に八本になって延びることでわかりました。「ああなさけない。おっかさんの云うことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」タネリは辛い塩水の中でぼろぼろ涙をこぼしました。犬神はおかしそうに口をまげてにやにや笑ってまた云いました。「ちょうざめ、どうしたい。」するとごほごほいやなせきをする音がしてそれから「どうもきのこにあてられてね。」ととても苦しそうな声がしました。「そうか。そいつは気の毒だ。実はね、おまえのとこに下男がなかったもんだから今日一人見附けて来てやったんだ。蟹にしておいたがね、ぴしぴし遠慮なく使うがいい。おい。きさまこの穴にはいって行け。」タネリはこわくてもうぶるぶるふるえながらそのまっ暗な孔の中へはい込んで行きましたら、ほんとうに情けないと思いながらはい込んで行きましたら犬神はうしろから砂を吹きつけて追い込むようにしました。にわかにがらんと明るくなりました。そこは広い室であかりもつき砂がきれいにならされていましたがその上にそれはもうとても恐ろしいちょうざめが鉢巻をして寝ていました。(こいつのつらはまるで黒と白の棘だらけだ。こんなやつに使われるなんて、使われるなんてほんとうにこわい。)タネリはぶるぶるしながら入口にとまっていました。するとちょうざめがううと一つうなりました。タネリはどきっとしてはねあがろうとしたくらいです。「うう、お前かい、今度の下男は。おれはいま病気でね、どうも苦しくていけないんだ。〔以下原稿空白〕

「サガレンと八月」宮沢賢治(青空文庫)

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