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杯(森鴎外)のあらすじ・登場人物

七つの銀の杯と八つ目の杯

  • 心理

森鴎外 1910年(明治43年)1月 「中央公論」

文字数
2,480字
読了目安
約5分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

『中央公論』1910年1月号の短編。温泉宿から滝へ登る道の泉で、「自然」の二字を刻んだ揃いの銀の杯を持つ七人の少女と、黒ずんだ小さな杯を持つ八人目の少女が出会う。一文ごとに短く切った文を重ね、色彩と光の描写を中心に、象徴性の強い場面を作る。一つの杯をめぐる小さな出来事を、寓話のように描いた作品。

あらすじ

夏の朝、温泉宿から鼓が滝へ登る道の途中に、盛り上がって溢れる清らかな泉がある。そこへ、揃いの湯帷子と赤いリボンの七人の少女が現れ、揃いの大きな銀の杯で泉の水を飲む。杯にはどれも「自然」の二字が刻まれている。そこへ、金髪に青い目の、東洋で生まれた西洋人の子かと思われる背の高い八人目の少女が来て、溶岩の冷めたような色の、黒ずんだ小さな杯を取り出す。七人は、その杯を手から手へ回して、くすんだ色だ、小さすぎて飲めまいと笑い、一人が自分の大きな銀の杯を貸そうと申し出る。八人目の少女は初めて口を開き、フランス語で、自分の杯は大きくはないが、自分の杯で飲むと言う。言葉は通じなくても、その態度は意志をはっきり表していた。七人は杯を引っ込め、黒い杯を返す。少女は静かに数滴の泉を汲み、ほのかに赤い唇を潤す。

登場人物

冒頭部(原文より)

温泉宿から皷が滝へ登って行く途中に、清冽な泉が湧き出ている。 水は井桁の上に凸面をなして、盛り上げたようになって、余ったのは四方へ流れ落ちるのである。 青い美しい苔が井桁の外を掩うている。 夏の朝である。

「杯」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

一人の娘は銀の杯を引っ込めた。 自然の銘のある、耀く銀の、大きな杯を引っ込めた。 今一人の娘は黒い杯を返した。 火の坑から湧き出た熔巌の冷めたような色をした、黒ずんだ、小さい杯を返した。 第八の娘は徐かに数滴の泉を汲んで、ほのかに赤い唇を潤した。

「杯」森鴎外(青空文庫)

名文

温泉宿から皷が滝へ登って行く途中に、清冽な泉が湧き出ている。

鴎外『杯』の書き出し。短い文を重ねて泉の情景を描き出し、これから始まる七人の娘と一人の娘の寓話の舞台を静かに整える。

「わたくしの杯は大きくはございません。それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」と云ったのである。

銀の杯を貸そうと言われた第八の娘が、小さな自分の杯を手放さずに答える場面。自分の器で書くという鴎外の芸術観を託した言葉として知られる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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