セロ弾きのゴーシュ(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
夜の練習に訪れる動物たち
- 幻想
- 文字数
- 11,706字
- 読了目安
- 約23分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治の没後、1934年(昭和9年)に発表された童話。セロとはチェロのことで、ゴーシュは町の活動写真館の楽団でその楽器を弾いている。音楽会に向けた合奏で楽長に厳しく叱られ、水車小屋の家に帰って一人で練習する彼のもとへ、夜更けに動物が訪ねてくる。楽器の響きを表す擬音や、演奏の速さ、拍子、音程をめぐるやり取りが、音楽を聴くような感覚を文章の中に生む。ゴーシュは気のよい人物としてだけ描かれるわけではなく、いらだちや負けん気もあらわにし、動物との会話にはおかしみと緊張がある。賢治自身にもチェロを購入して練習した経験があり、音楽への関心と結びつけて読める作品である。人と動物とが同じ音に耳を傾ける夜を通して、練習することや他者の声を聴くことの意味を考えさせる。
あらすじ
町の活動写真館でセロを弾くゴーシュは、楽団の中でいちばんの下手くそで、今度の音楽会に向けた練習でも楽長にひどく叱られてばかりいる。悔しさを抱えて水車小屋の家へ帰ったゴーシュは、夜遅くまで一人でセロの練習を続ける。すると夜ごと、三毛猫、かっこう、子だぬき、野ねずみの親子といった動物たちが代わる代わる訪ねてきて、それぞれの頼みごとに応じてゴーシュにセロを弾かせていく。腹を立てたり戸惑ったりしながらも動物たちに付き合ううち、ゴーシュの腕はいつしか目に見えて上達していた。迎えた音楽会の本番、演奏を終えたゴーシュはアンコールを求められ、一人であの夜通りに弾いた曲を見事に演奏してみせ、万雷の拍手を浴びる。その夜、家に帰ったゴーシュは、かつて怒鳴りつけてしまったかっこうのことを思い出し、心のなかでそっと詫びるのだった。
登場人物
- ゴーシュ 町の楽団でセロを弾く青年。腕前は下手だが、動物たちとの交流を通して上達していく本作の主人公
- 楽長 ゴーシュの下手な演奏を厳しく叱る楽団の指揮者
- 三毛猫・かっこう・子だぬき・野ねずみの親子 夜ごとゴーシュのもとを訪れ、それぞれの頼みごとをする動物たち
冒頭部(原文より)
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。トランペットは一生けん命歌っています。
「セロ弾きのゴーシュ」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
その晩遅くゴーシュは自分のうちへ帰って来ました。そしてまた水をがぶがぶ呑みました。それから窓をあけていつかかっこうの飛んで行ったと思った遠くのそらをながめながら「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。」と云いました。
「セロ弾きのゴーシュ」宮沢賢治(青空文庫)
名文
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。
楽長に叱られてばかりの下手なセロ弾きを紹介する書き出し。夜ごと訪れる動物たちとの稽古が、彼を静かに変えていく。
ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。
演奏会を成功させた夜の結び。稽古につきあわせた末に追い出した鳥への詫びが、ゴーシュの変化を静かに示す。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。