種山ヶ原(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
霧の高原で牛を追う少年
- 幻想
- 冒険
- 文字数
- 7,758字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 岩手県
この作品について
北上山地の高原・種山ヶ原を舞台に、夏休みも残り一日という日に牛を連れて原へ登った少年・達二が、霧に巻かれて迷う物語。蛇紋岩や橄欖岩からなる高原の地勢、馬の放牧、種山剣舞の囃子ことばなど土地の風物を序にして、霧のなかの幻覚と夢が重なっていく。方言の会話と擬音がひびく文体で、岩手の高原の天候の移り変わりが筋立てを動かしている。
あらすじ
種山ヶ原は北上山地のまん中の高原で、春から夏のあいだ、里の馬を預かって放牧する。夏休みも明日で終わりという日、少年の達二は、種山剣舞の晴れ姿を思い返していた。母に頼まれて、弁当を持ち、牛を連れて、草刈りをしている祖父と兄のもとへ原を登る。兄に会って原の入り口で待つよう言われたあいだに牛が突然走り出し、追いかけた達二は深い草の中で倒れる。牛の通った跡をたどるうちに道はいくつにも分かれ、霧と風のなかで方向を見失い、見たこともない谷の縁にまで出てしまう。叫んでも返事はなく、達二は気を失う。夢の中では剣舞の仲間と町へ踊りに出て、女の子から干した苹果をもらい、小鳥を取りに戻るとそれは菓子に変わっている。さらに山男に倒され、組み敷かれながら刀を取り返して刺し殺す。目を開けると牛が目の前に立っていて、霧の中から兄の声が聞こえる。兄は達二を見つけ、探していたのは笹長根の下り口だったと言い、祖父が火を焚いて待つ場所へ連れていく。祖父は、向こうへ降りていたらそれっきりだったと言う。団子を食べ、やがて霧が切れて日が射し、北上の野原が泣きやんだようにまぶしく笑う。
登場人物
- 達二 牛を連れて原へ登る少年
- 達二の兄 原で草を刈る兄
- 祖父 霧の中で火を焚いて待つ
- 山男 達二の夢に現れる
冒頭部(原文より)
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。
「種山ヶ原」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
霧がふっと切れました。陽の光がさっと流れて入りました。その太陽は、少し西の方に寄ってかかり、幾片かの蝋のような霧が、逃げおくれて仕方なしに光りました。 草からは雫がきらきら落ち、総ての葉も茎も花も、今年の終りの陽の光を吸っています。 はるかの北上の碧い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、向うの栗の木は、青い後光を放ちました。
「種山ヶ原」宮沢賢治(青空文庫)
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