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谷(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物

赤い崖のきのこ山

  • 冒険
  • 幻想

宮沢賢治 

文字数
4,470字
読了目安
約9分
表記
新字新仮名

この作品について

少年の「私」が、馬番の理助に連れられて山の奥のきのこ採りの穴場へ行き、そばにある深い赤い崖を見せられる。翌年はその場所を探して友だちと出かけ、崖に向かって叫ぶ。子どもの目で見た山の怖さとこずるい大人、きのこ採りの高揚が、一人称の語りで率直に書かれる。楢渡の崖、はぎぼだしなど土地のきのこの名が出る、山村の暮らしの手ざわりのある短編。

あらすじ

楢渡のそばには、五本の灰色の線が走る深くて赤い崖がある。「私」は尋常三、四年のころ、野原で野葡萄を食べていて、馬番の理助に誘われ、蕈のたくさん採れる場所へ連れて行かれた。柏の林を抜けた空地にはぎぼだしが生え、理助は炭俵に白い蕈ばかり詰め、私には茶色のほうがよいと言う。帰りに理助は私を崖のふちに立たせて脅し、ひとりで来るなと言う。私は古い蕈ばかりを抱えて帰り、兄に理助はずるいと笑われる。次の春、理助は北海道の牧場へ行ってしまう。秋、私は誰にも知らせずに、友人の藤原慶次郎を誘って籠を持ち、山へ入る。新しいはぎぼだしの場所を見つけて籠いっぱいに採り、雨に濡れても喜ぶが、場所を確かめようと歩くうちに崖に出て、去年の場所の近くだと知る。二人が崖に向かって「あばよ」「馬鹿」と叫ぶと、こだまが返り、最後の悪口にはごそごそとつぶやくような返事があって、二人は怖くなって逃げ帰る。翌年は兄にも話して、みんなで出かけたのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 楢渡のとこの崖はまっ赤でした。  それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。  谷底には水もなんにもなくてただ青い梢と白樺などの幹が短く見えるだけでした。  向う側もやっぱりこっち側と同じようでその毒々しく赤い崖には横に五本の灰いろの太い線が入っていました。ぎざぎざになって赤い土から喰み出していたのです。それは昔山の方から流れて走って来て又火山灰に埋もれた五層の古い熔岩流だったのです。  崖のこっち側と向う側と昔は続いていたのでしょうがいつかの時代に裂けるか罅れるかしたのでしょう。霧のあるときは谷の底はまっ白でなんにも見えませんでした。  私がはじめてそこへ行ったのはたしか尋常三年生か四年生のころです。ずうっと下の方の野原でたった一人野葡萄を喰べていましたら馬番の理助が欝金の切れを首に巻いて木炭の空俵をしょって大股に通りかかったのでした。そして私を見てずいぶんな高声で言ったのです。

「谷」宮沢賢治(青空文庫)

末尾部(原文より)

「もう帰ろうか。」私は云いました。 「帰ろう。あばよ。」と慶次郎は高く向うのまっ赤な崖に叫びました。 「あばよ。」崖からこだまが返って来ました。  私はにわかに面白くなって力一ぱい叫びました。 「ホウ、居たかぁ。」 「居たかぁ。」崖がこだまを返しました。 「また来るよ。」慶次郎が叫びました。 「来るよ。」崖が答えました。 「馬鹿。」私が少し大胆になって悪口をしました。 「馬鹿。」崖も悪口を返しました。 「馬鹿野郎。」慶次郎が少し低く叫びました。  ところがその返事はただごそごそごそっとつぶやくように聞えました。どうも手がつけられないと云ったようにも又そんなやつらにいつまでも返事していられないなと自分ら同志で相談したようにも聞えました。  私どもは顔を見合せました。それから俄かに恐くなって一緒に崖をはなれました。  それから籠を持ってどんどん下りました。二人ともだまってどんどん下りました。雫ですっかりぬればらや何かに引っかかれながらなんにも云わずに私どもはどんどんどんどん遁げました。遁げれば遁げるほどいよいよ恐くなったのです。うしろでハッハッハと笑うような声もしたのです。  ですから次の年はとうとう私たちは兄さんにも話して一緒にでかけたのです。

「谷」宮沢賢治(青空文庫)

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