手袋を買いに(新美南吉)のあらすじ・登場人物
雪あかりの町へ初めての買い物
- 家族
- 文字数
- 3,519字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1933年(昭和8年)に書かれ、没後の1943年に童話集『牛をつないだ椿の木』へ収められた新美南吉の童話。初めて雪を見た子狐は、そのまぶしさに驚き、夢中で遊んで手を冷やしてしまう。母狐は毛糸の手袋を買ってやろうと町へ向かうが、人間への恐ろしい記憶が足を止める。子狐だけを送り出すため、母は片方の手を人間の子供の手に変え、買い物の仕方を繰り返し教える。雪の粉に映る小さな虹や、星のように見える町の灯など、子狐が出会う世界は光と色を伴って描かれる。その新鮮な驚きと、経験から用心する母の気持ちが並び、同じ人間の町にも二通りの見方が生まれる。子を包む手のぬくもりから夜の買い物へとつながる、親子の会話と冬の情景を味わう一編だ。
あらすじ
寒い冬が北の方から、狐の親子が棲む森にもやって来た。生まれてはじめて雪を見た子狐は、冷たさに手がかじかんでしまう。母狐は、我が子のために町へ手袋を買ってやろうと決める。だが母狐には、かつて友達が家鴨を盗もうとして農夫に追われた恐ろしい記憶があり、どうしても町までついて行く勇気が出ない。そこで母は、子狐の片方の前足だけを人間の子どもの手の形に変え、その手に白銅貨を握らせて、町の帽子屋で「この手を差し出して、これにあう手袋をください」と言うようにと、繰り返し言い聞かせて送り出す。町の灯りに戸惑いながら帽子屋にたどり着いた子狐は、戸の隙間から差す光に目がくらんで人間の手ではなく、狐のままの手を差し出してしまう。店の主人は一瞬あやしむが、子狐が握っていたのが本物のお金だったので、そのまま毛糸の手袋を売ってやった。子狐は無事に母のもとへ帰り、「人間はちっとも恐くないよ」と話す。それを聞いた母狐は、「ほんとうに人間はいいものかしら」と、つぶやくのだった。
登場人物
- 子狐 生まれてはじめて雪を見た幼い狐。母に言いつけられて、独りで町へ手袋を買いに行く
- 母狐 我が子を思う母。人間を恐れながらも、子狐の片手を人間の手に変えて町へ送り出す
冒頭部(原文より)
寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。 或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、 「あっ」と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。 「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。 母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照していたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかった子供の狐は、あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。
「手袋を買いに」新美南吉(青空文庫)
末尾部(原文より)
二匹の狐は森の方へ帰って行きました。月が出たので、狐の毛なみが銀色に光り、その足あとには、コバルトの影がたまりました。 「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや」 「どうして?」 「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、掴まえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖い手袋くれたもの」 と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。お母さん狐は、 「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。
「手袋を買いに」新美南吉(青空文庫)
名文
寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。
冬の訪れとともに始まる童話の書き出し。人間を恐れる母狐と、何も知らない子狐の一夜が、この一行から動き出す。
ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら
子狐が無事に手袋を買って帰った結び。人間を恐れ続けてきた母狐のつぶやきが、答えを出さないまま余韻を残す。
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れて牡丹色になった両手を母さん狐の前にさしだしました。
初めて雪に触れた子狐が母さん狐に訴える言葉。「ちんちんする」という幼い言い回しが冷たさを肌で伝え、わが子を案じる母の思いから物語が動き出す。
原文を読む
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