手紙 四(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
兄は妹を捜す手紙を出す
- 家族
- 文字数
- 1,728字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治が残した「手紙」と題する四編の連作の一つ。いじわるばかりした兄チュンセが、病気で亡くなった妹ポーセを悔やみ、「どなたかポーセを知りませんか」と尋ねる手紙が印刷されて配られる、という設定の短編。妹の死と兄の悔いを童話の形で綴り、最後に、すべての生きもののほんとうの幸福を探すという仏教的な教えが示される。
あらすじ
語り手は、ある人に言いつけられて、この手紙を印刷して皆に渡す。ポーセを知っている人はいないか、チュンセがさっぱりごはんも食べず毎日考えてばかりいる、と。ポーセはチュンセの小さな妹で、チュンセはいつもいじわるばかりしていた。ポーセが植えた桃の木になめくじをつけたり、靴に甲虫を飼ったり、くるみの青い実を頭に投げつけて泣かせたりした。十一月ごろ、ポーセは急に病気になる。チュンセは何でもやると言うが、ポーセは雨雪が食べたいと答え、チュンセはみぞれの降るなかへ飛び出して雨雪をとってきて食べさせる。ポーセは三さじばかり食べて、ぐたっとなり、息をしなくなる。春、チュンセは学校を六年でやめ、働き出し、土の中から出てきた小さな緑の蛙を石で叩く。昼、枯れ草の中でうとうとしていると、ポーセが現れ、「兄さんなぜあたいの青いおべべ裂いたの」と言う。チュンセが跳ね起きて探しても、何もわからない。手紙を言いつけた人は、ポーセを訪ねるのはむだで、あらゆる生きものはむかしからみんなきょうだいだから、チュンセが本当に妹を思うなら、すべての生きもののほんとうの幸福をさがさなければいけない、それは法華経というものだ、と語る。
登場人物
- チュンセ いじわるばかりした兄。妹の死を悔いて考え込む
- ポーセ チュンセの小さな妹。病気で亡くなる
- おっかさん ポーセの病気を心配する母
冒頭部(原文より)
わたくしはあるひとから云いつけられて、この手紙を印刷してあなたがたにおわたしします。どなたか、ポーセがほんとうにどうなったか、知っているかたはありませんか。チュンセがさっぱりごはんもたべないで毎日考えてばかりいるのです。 ポーセはチュンセの小さな妹ですが、チュンセはいつもいじ悪ばかりしました。ポーセがせっかく植えて、水をかけた小さな桃の木になめくじをたけておいたり、ポーセの靴に甲虫を飼って、二月もそれをかくしておいたりしました。ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって青い実を落していましたら、ポーセが小さな卵形のあたまをぬれたハンケチで包んで、「兄さん、くるみちょうだい。」なんて云いながら大へんよろこんで出て来ましたのに、チュンセは、「そら、とってごらん。」とまるで怒ったような声で云ってわざと頭に実を投げつけるようにして泣かせて帰しました。 ところがポーセは、十一月ころ、俄かに病気になったのです。おっかさんもひどく心配そうでした。チュンセが行って見ますと、ポーセの小さな唇はなんだか青くなって、眼ばかり大きくあいて、いっぱいに涙をためていました。チュンセは声が出ないのを無理にこらえて云いました。「おいら、何でも呉れてやるぜ。あの銅の歯車だって欲しけややるよ。」けれどもポーセはだまって頭をふりました。息ばかりすうすうきこえました。
「手紙 四」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
それからひるすぎ、枯れ草の中でチュンセがとろとろやすんでいましたら、いつかチュンセはぼおっと黄いろな野原のようなところを歩いて行くようにおもいました。すると向うにポーセがしもやけのある小さな手で眼をこすりながら立っていてぼんやりチュンセに云いました。 「兄さんなぜあたいの青いおべべ裂いたの。」チュンセはびっくりしてはね起きて一生けん命そこらをさがしたり考えたりしてみましたがなんにもわからないのです。どなたかポーセを知っているかたはないでしょうか。けれども私にこの手紙を云いつけたひとが云っていました「チュンセはポーセをたずねることはむだだ。なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいているひとでも、汽車の中で苹果をたべているひとでも、また歌う鳥や歌わない鳥、青や黒やのあらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがいのきょうだいなのだから。チュンセがもしもポーセをほんとうにかあいそうにおもうなら大きな勇気を出してすべてのいきもののほんとうの幸福をさがさなければいけない。それはナムサダルマプフンダリカサスートラというものである。チュンセがもし勇気のあるほんとうの男の子ならなぜまっしぐらにそれに向って進まないか。」それからこのひとはまた云いました。「チュンセはいいこどもだ。さァおまえはチュンセやポーセやみんなのために、ポーセをたずねる手紙を出すがいい。」そこで私はいまこれをあなたに送るのです。
「手紙 四」宮沢賢治(青空文庫)
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