照葉狂言(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
旅役者となった少年の恋
- 青春
- 恋愛
- 文字数
- 49,759字
- 読了目安
- 約1時間40分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
金沢を舞台に、少年の恋と旅役者の情を描いた初期の代表作。1896年(明治29年)11月から12月にかけて「読売新聞」に連載された。母を亡くした少年が、隣家の姉と慕う人と、町へ来た照葉狂言の女役者とのあいだで心を分かたれてゆく。森鴎外訳「即興詩人」の影響が指摘される抒情的な文体で綴られ、鏡花自身の生い立ちの影も濃い一篇。
あらすじ
母を亡くした少年・貢は、隣家の二階の窓から笑顔を向けてくれる「姉上」——広岡のお雪を慕って暮らしていた。姉上は貢の母の喪を憚って、日課の琴を弾かなくなったのだという。町はずれに照葉狂言の小屋が掛かると、貢は毎晩のように木戸をくぐり、牛若に扮する女役者・小親に心を奪われる。伯母のもとを離れた貢は小親に引き取られ、旅の一座の芸人として諸国を巡ることになった。八年の歳月が流れ、一座とともに故郷へ戻った貢が知ったのは、継母の企みで意に染まぬ養子を迎えさせられ、苦しんでいる姉上の身の上だった。姉上を救いたい。しかし自分を育ててくれた小親を犠牲にすることもできない。
登場人物
- 貢 母を亡くした少年。のちに照葉狂言の一座に加わり旅役者となる
- 姉上(お雪) 貢が姉と慕う隣家・広岡の娘。琴を弾く優しい人
- 小親 照葉狂言の女役者。牛若を演じ、貢を引き取って育てる
- 隣家の女房 貢に継子いじめのお伽噺を聞かせる、金魚を飼う女
- 小六 小親の一座の年上の女役者
冒頭部(原文より)
二坪に足らぬ市中の日蔭の庭に、よくもこう生い立ちしな、一本の青楓、塀の内に年経たり。さるも老木の春寒しとや、枝も幹もただ日南に向いて、戸の外にばかり茂りたれば、広からざる小路の中を横ぎりて、枝さきは伸びて、やがて対向なる、二階家の窓に達かんとす。その窓に時々姿を見せて、われに笑顔向けたまうは、うつくしき姉上なり。 朝な夕な、琴弾きたまうが、われ物心覚えてより一日も断ゆることなかりしに、わが母みまかりたまいし日よりふと止みぬ。
「照葉狂言」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
山の端に歩み出でつ。 と見れば明星、松の枝長くさす、北の天にきらめきて、またたき、またたき、またたきたる後、拭うて取るよう白くなりて、しらじらと立つ霧のなかより、麓の川見え、森の影見え、やがてわが小路ぞ見えたる。襟を正して曰く、聞け、彼処にある者。わが心さだまりたり。いでさらば山を越えてわれ行かむ。慈み深かりし姉上、われはわが小親と別るるこの悲しさのそれをもて、救うことをなし得ざる姉上、姉上が楓のために陥りたまいしと聞く、その境遇に報い参らす。
「照葉狂言」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。