隣の女(尾崎紅葉)のあらすじ・登場人物
尺八の音で恋をした醜男
- 恋愛
- 風刺
- 文字数
- 58,945字
- 読了目安
- 約1時間58分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
尾崎紅葉が雅俗折衷の戯文で描いた中編小説。1893年(明治26年)8月20日から10月7日まで読売新聞に連載され、1894年(明治27年)6月に春陽堂から初版が出た。主人公は浅草郵便局の為替係・粕壁譲、二十八歳。品行方正で倹約家と見えて、じつは自分の醜い顔を恨み、「一生に一度でいいから女に思われてみたい」と焦がれている独身男である。唯一の自慢は、月給の一月半を投じて手に入れた名管「虫の音」で吹く尺八。その音色が垣一重の隣家に越してきた美しい妾の心をとらえたらしいと知ってから、譲の浮かれぶりと取り越し苦労が始まる。語り手が譲を冷やかしたり同情したりしながら進める、ユーモアと皮肉の利いた一編。本書は博文館『紅葉全集』第四巻(1912年。初版は1904年)に収める本文を、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正したもので、青空文庫には無い。ルビは底本のものを可能な限り残した。
あらすじ
浅草郵便局の為替係・粕壁譲は二十八歳の独身。両親も親類も家もなく、寺島村の植木屋・植久の奥座敷に下宿している。身なりは清潔で行いも堅く、同僚には「話せない奴」と思われているが、本人は自分ほどの醜男はないと思い込み、女に惚れられてみたいと人知れず焦がれている。楽しみは日曜の貸本と、月給の一月半を投じた名管「虫の音」で吹く尺八だけだった。ある日、垣一重の隣の二階家に、若く美しい妾が越してくる。譲が尺八を吹いていると、その二階の欄干に女の姿があらわれ、下宿の主人・植久は「あの女は旦那の尺八に聞きほれている」とけしかける。半信半疑の譲が試しに吹いてみると、隣の三味線が合奏をはじめた。有頂天になった譲は、顔だけは見られまいと用心しながら、垣根に穴をあけて隣をのぞこうとする。ある晩、隣家に巡査が灯を消して入っていくのを見かけ、気が揉めて寝つけない。翌日の昼、うっかり二階の女と顔が合って慌てて逃げ込むと、それきり合奏の音はぴたりとやんでしまい、譲は愛想を尽かされたと落胆する。ところが数日後、女は庭へ銀の簪に結んだ手紙を投げてよこす。「今晩八時ごろ、尺八をもっておいでください」。譲は湯に入り、盛装して、局長の家へ招かれたと嘘をつき、植久夫婦の目をごまかして隣家へ向かう。
登場人物
- 粕壁譲(かすかべ ゆづる) 浅草郵便局の為替係、二十八歳。独身で、寺島村の植久の家に下宿している。身なりと暮らしは几帳面だが、自分の顔の醜さを恨み、女に思われたいと願っている。尺八の名手
- 小夜(さよ) 隣家に越してきた美しい妾。十九、二十歳に見える。三味線を弾き、ことに横目づかいと口もとが愛らしい
- 植久(うゑきう) 譲が下宿する植木屋の主人。久五郎。酒が入ると口が軽く、譲をけしかけたり冷やかしたりする
- 植久の女房 譲の世話をする下宿のおかみ。何かと理由をつけて譲に奢らせる
- 佐々木(ささき) 巡査。隣家の小夜のもとへ、巡回の途中に灯を消して通ってくる男
冒頭部(原文より)
浅草郵便局の為換掛に粕壁譲といふのがゐた。
「隣の女」尾崎紅葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
其後二週間も立たぬ内に、小夜は築地辺へ妾宅を移して、今も不相変麗しいと聞く。
「隣の女」尾崎紅葉(青空文庫)
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:博文館『紅葉全集』第四巻(1912年。初版は1904年)所収の「隣の女」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、本文だけを収録した(柱・扉・挿絵は省いた)。ルビは底本のものを可能な限り残した。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。