月の松山(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
死を前にした男の最期の願い
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 20,459字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1954年(昭和29年)、「キング」に発表した時代小説。医者から不治の病を告げられた男・宗城孝也が、残された日々をどう過ごすかを、月の松山を背景に、しみじみと描いた一編である。
あらすじ
医者の花崗道円が、浮かない顔で念入りに手を拭き、莨に火をつける。「やはりそうですか」と問う宗城孝也に、道円はしばらく煙を見まもってから、重い口を開く。「間違いありません、お気の毒ですが、もう間違いはありません」——不治の病の宣告だった。だが孝也は、取り乱すことなく、静かに自らの死を受け入れる。物語は、限られた時間のなかで、孝也が身辺を整え、大切な人々への思いを託していくさまを、月の松山を背景に、しみじみと描いていく。物語の結び、孝也は友・泰二郎に、後事を託す。「あのひとを頼む」「熊の仔はおれが放した」——飼っていた熊の仔を山へ放ち、後を頼んで、孝也の呼吸は止まる。泰二郎は孝也の手を握ったまま、激しく泣きだす。靄はほとんど消えていた——。一人の男の潔い最期を、静かな余韻とともに描いた、山本の一編である。
登場人物
- 宗城孝也 不治の病を告げられた男
- 花崗道円 医者
- 泰二郎 孝也の友
冒頭部(原文より)
宗城孝也は足袋をはきながら、促すように医者のほうを見た。花崗道円は浮かない顔つきで、ひどく念いりに手指を拭き、それから莨盆をひきよせて、いっぷくつけた。 「やはりそうですか」と孝也が訊いた。 道円は聞えなかったように、じっと、煙管からたち昇る煙を見まもっていた。 「間違いありません」と道円は云った、「お気の毒ですが、もう間違いはありません」
「月の松山」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あのひとを頼む」と孝也は云った、「――熊の仔はおれが放した」 泰二郎は孝也の手を握った。孝也の呼吸は止った。泰二郎は孝也の手を握ったまま激しく泣きだした。靄は殆んど消えていた。
「月の松山」山本周五郎(青空文庫)
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