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堤中納言物語(作者不詳)のあらすじ・登場人物

鬼と女とは、人に見えぬぞよき

  • 恋愛
  • 風刺
  • 古典

作者不詳 

文字数
30,470字
読了目安
約1時間1分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府

この作品について

平安時代の後期から、それよりのちにかけて書かれた十編の短い物語と、題の無い一つの断章を集めた短編物語集。各編の作者も成立の時期もまちまちで、まとめた人も書名の由来もわかっていない。そのうち「逢坂こえぬ権中納言」だけは、天喜3年(1055年)の物語歌合に小式部の作として出されたことが知られている。毛虫を集めてかわいがり、眉も抜かず歯も染めない姫君を描く「虫めづる姫君」、恋しい姫君を連れ出そうとする「花桜折る少将」、化粧をめぐる失敗を描く「はいずみ」など、王朝物語の型を外した意外な結末や滑稽さ、鋭い人間観察に富み、短編ならではの切れ味を見せる。本書は国文大観(丸岡桂・松下大三郎 共編、板倉屋書房、1903年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正し、収録した。

あらすじ

「花桜折る少将」では、月に誘われて夜明け前に出歩いた貴公子が、荒れた屋敷で美しい姫君を垣間見る。いずれ入内させられると聞き、手引きを頼んで忍び入り、臥していた人を抱いて車で連れ去るが、それは姫君を案じて添い寝していた、尼姿の年老いた祖母だった。「このついで」では、中宮のもとに薫物が届いた春の昼、宰相中将と女房たちが、このついでにと順に身にしみた話を語り合う。「虫めづる姫君」の按察使の大納言の姫君は、花や蝶をめでる世の人をいぶかしみ、ものの本質を尋ねてこそと、恐ろしげな虫を集めて毛虫をかわいがる。眉も抜かず歯も染めず、童たちには虫の名をつけて召し使う。いたずらに蛇の作り物を贈られると、念仏を唱えて強がりながらも内心はおびえる。右馬の助は女に化けて姫君を垣間見、その人柄の惜しさを思いながら歌を贈る。「ほどほどの懸想」は、葵祭のころに始まる、小舎人童と女童、その主人筋の若い男と女房、さらに頭中将と故式部卿宮の姫君という、身分ごとの三つの恋を描く。「逢坂こえぬ権中納言」の中納言は、宮中の根合で左方を勝ちに導き、琵琶や和琴の遊びでも人々をうっとりさせるほどの人だが、思いを寄せる宮には受け入れられず、手引きで寝所に入りながらも契りを結ばずに帰る。「かひあはせ」では、蔵人の少将が忍び込んだ屋敷で、母のいない姫君が継母の姫君との貝合わせを前に貝が集まらず心細くしているのを見る。童たちが観音に勝たせてほしいと祈るのを聞いて、物陰から歌を詠みかけ、観音のお告げと喜ばせたうえで、翌朝ひそかに貝を満たした洲浜を贈る。「思はぬかたにとまりする少将」では、両親を亡くした姉妹のもとへそれぞれ通う二人の少将が、迎えの車の取り違えから、互いの恋人を連れ帰ってしまう。「はなだの女御」では、好色な男が、宮仕えの姉妹たちが里に集まって仕える女御や后を花にたとえ合うのを立ち聞きする。「はいずみ」の男は、新しい妻を迎えるためにもとの妻を家から出すが、別れの歌に胸を打たれて連れ戻す。あわてた新しい妻は白粉と間違えて掃墨を顔に塗り、男は逃げ帰る。「よしなしごと」は、世を捨てて籠もると言う僧が、途方もない品々をならべて貸してほしいと書いた滑稽な手紙で、最後に冬の月夜を描いた短い断章が添えられている。

登場人物

冒頭部(原文より)

月にはかられて、夜深く起きにけるも、思ふらむ所いとほしけれど、立ちかへらむも遠きほどなれば、やうやう行くに、小家などにれい音なふものも聞えず、隈なき月に、所々の花の木どもゝ、ひとへにまがひぬべくかすみたり。

「堤中納言物語」作者不詳(青空文庫)

末尾部(原文より)

冬ごもる空の景色に、しぐるゝたびにかきくもる袖のはれまは、秋より殊にかわくまなきに、むら雲晴れゆく月の殊に光さやけきは、木の葉がくれだになければにや、なほしのばれぬなるべし。あくがれ出で給ひて、あるまじき事と思ひかへせば、外ざまにと思ひたゝせ給ふが、猶えひき過ぎぬなるべし。いと忍びやかに入りてあまた人のけはひするかたにうちとけ居たらむ気色もゆかしく、さりともみづからのありさまばかりこそあらめ、何ばかりのもてなしにもあらじを、大かたのけはひにつけても。

「堤中納言物語」作者不詳(青空文庫)

名文

蝶めづる姫君の住み給ふかたはらに、あぜちの大納言の御むすめ、心にくゝなべてならぬさまに、親だちかしづき給ふ事限なし。この姫君ののたまふ事「人々の花や蝶やとめづるこそ、はかなうあやしけれ。人はまことありほんぢ尋ねたるこそ、心ばへをかしけれ」とてよろづ虫の恐ろしげなるを取りあつめて、これが成らむさまを見むとて、さまざまなるこばこどもに入れさせ給ふ。

『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」の書き出し。人が花や蝶をもてはやすのは浅はかで、物の本質を尋ねてこそ心ばえがあると言い放ち、毛虫を集めて育てる姫君が登場する。平安の物語には珍しい型破りな主人公である。

原文を読む

原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:丸岡桂・松下大三郎 共編「國文大觀 物語部 雜上」(板倉屋書房、1903年)所収の「堤中納言物語」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、堤中納言物語の本文だけを収録した(本文の脇の異本の注記は省き、変体仮名は通行の仮名に改めた。各編の番号は収録にあたって補った)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。

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