鵜(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
淵に沈める暗い執念
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 18,741字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1954年(昭和29年)、「講談倶楽部」に発表した時代小説。布施半三郎は、二十日あまりかけて、人里離れた断崖の下の淵を探しあてる——ある暗い目的のために。静かな釣りの情景の底に、抑えつけられた執念をひそませた、余韻の深い一編である。
あらすじ
布施半三郎は、その淵をみつけるのに二十日あまりかかった。加能川には釣り場が多く、雇い仲間の段平は「三十八カ所ある」と言ったが、半三郎の求める条件に合うのは、その淵だけだった。七十尺ばかりの断崖の下、岩角や木の根をつたっておりるほかに道はなく、対岸も断崖で、末すぼまりの袋のようになった淵——他から完全に隔絶され、人の来る心配もない。「申し分なしだ、まるでお誂え向きだ」と、半三郎は満足そうに頷く。なぜ、彼はそれほどまでに人目を避けた淵を求めたのか。静かな釣りの情景の底に、ある抑えつけられた暗い執念がひそんでいた。物語の結び、半三郎の竿が大きく撓り、水面で魚が跳ねる。彼は撓う竿を持ったまま、低く頭を垂れて、口の中で「ただこ、――」と囁く。水面で魚のはねる大きな水音がした——。多くを語らぬまま、深い余韻を残す、山本の名短編である。
登場人物
- 布施半三郎 人目を避けた淵を求める男
- 段平 半三郎の雇い仲間
冒頭部(原文より)
布施半三郎はその淵をみつけるのに二十日あまりかかった。 加能川には釣り場が多い、雇い仲間の段平は「三十八カ所ある」と云った。半三郎はひととおり見て廻ったが、自分の求めている条件に合うのは、その淵だけであった。……そこは七十尺ばかりの断崖の下にある。岩角や木の根をつたっておりるほかに道はない。
「鵜」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
半三郎の持っている竿が撓った。もっと大きく撓い、水面で魚が跳ねた。彼はその撓う竿を持ったまま、頭を垂れた、低く頭を垂れて、そして口の中で囁いた。 「ただこ、――」 水面で魚のはねる大きな水音がした。
「鵜」山本周五郎(青空文庫)
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