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海の使者(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

満ち潮に現れる虎斑の海月

  • 幻想

泉鏡花 1909年(明治42年)7月 「文章世界」

文字数
4,811字
読了目安
約10分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1909年(明治42年)7月、雑誌「文章世界」に載った掌編。秋の彼岸過ぎ、背戸の小橋を渡る「私」の耳に、橋の下から小さな鳥のような鳴き声が聞こえてくる。「岡沙魚」という空想の生き物の話を交えながら、満ちてくる潮の汀で、虎斑の海月が不気味に姿を現す夕暮れを描く。

あらすじ

秋の彼岸過ぎの三時、薄曇りの午後、背戸の小橋を渡ろうとした「私」は、足もとの低いところで「きりきりきり」と鳥のような声がするのに気づく。覗き込んでも蟹とやどかりが蠢くばかりで、鳴く生き物の姿はない。友達から聞いた陸に棲む沙魚「岡沙魚」の話を思い出し、橋を鳴らす音だったのかと笑って、蘆の中の池へ進む。そこでは汐が満ちはじめ、虎斑の海月が一匹、水面に影のように浮かんで、「私」の足元を泳ぎ回っている。憎らしくて蘆の茎で掬うが、つるりと逃げられる。海月は潮の流れとともに、渦を巻いて浮き、人間を恐れたように退いたかと思えば引き返してくる。やがて水かさはぐんぐんと増して、蘆の根を揺すり、海月の体が白く光を放って橋へ迫った。「私」が慌てて元の橋へ戻ると、橋はまた「きりりりり」と鳴る。潮は袂まで来て、海月が曳々声で水を押し上げようとするかのような気配のなか、玄武寺の頂の巌に月影がさした。

冒頭部(原文より)

 何心なく、背戸の小橋を、向こうの蘆へ渡りかけて、思わず足を留めた。 不図、鳥の鳴音がする。……いかにも優しい、しおらしい声で、きりきり、きりりりり。 その声が、直ぐ耳近に聞こえたが、つい目前の樹の枝や、茄子畑の垣根にした藤豆の葉蔭ではなく、歩行く足許の低い処。 其処で、立ち佇って、ちょっと気を注けたが、もう留んで寂りする。――秋の彼岸過ぎ三時下りの、西日が薄曇った時であった。この秋の空ながら、まだ降りそうではない。桜山の背後に、薄黒い雲は流れたが、玄武寺の峰は浅葱色に晴れ渡って、石を伐り出した岩の膚が、中空に蒼白く、底に光を帯びて、月を宿していそうに見えた。

「海の使者」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

(さっさっさっ。 しゅっしゅっ、 さっ、さっ!) と曳々声で、水を押し上げようと努力る気勢。 玄武寺の頂なる砥のごとき巌の面へ、月影が颯とさした。――

「海の使者」泉鏡花(青空文庫)

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