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美しい村(堀辰雄)のあらすじ・登場人物

高原の村で出会う夏と少女

  • 恋愛

堀辰雄 1933年(昭和8年)6月 「大阪朝日新聞」

文字数
42,708字
読了目安
約1時間25分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 長野県

この作品について

堀辰雄が軽井沢を舞台に描いた連作の中編小説。まだ避暑客の来ない初夏の高原の村にひとり滞在する「私」が、季節の移ろいと村の自然を繊細に見つめながら、小説の構想を練り、やがて一人の少女との出会いへと向かってゆく。「序曲」「美しい村」「夏」「暗い道」の四部からなり、透明で音楽的な文体で心の風景を綴る。のちの「風立ちぬ」へと連なる、堀文学の抒情の世界を代表する作品である。

あらすじ

六月の初め、「私」はまだ避暑客の訪れない高原の村にひとりやって来る。三年前、病後にこの村で過ごした秋の物寂しさとは打って変わり、生き生きと夏を待つ初夏の自然に「私」は心をなごませ、村のなかを散歩しながら書きあぐねていた小説の構想を静かに温めてゆく。教会や別荘、樅の林、水車の道――村の風物や、そこですれ違う人々の面影を丹念に見つめるうち、「私」はかつてこの村の坂道で出会った少女たちの記憶をよみがえらせる。やがて夏が深まり村がにぎわいを取り戻すころ、「私」は一人の若い娘と親しくなり、二人で夕暮れの村を歩くようになる。ある晩、林の小道を抜けて娘と歩いていた「私」は、思いがけず昔の女友達や学生時代の友人の一行と鉢合わせする。暗い坂道を先に一人下りてゆく「私」の耳に、後から降りてくる人々の声が届き、かつての出会いと今とが淡く重なり合うなかで物語は閉じられる。

登場人物

冒頭部(原文より)

六月十日 K…村にて  御無沙汰をいたしました。今月の初めから僕は当地に滞在しております。前からよく僕は、こんな初夏に、一度、この高原の村に来てみたいものだと言っていましたが、やっと今度、その宿望がかなった訣です。まだ誰も来ていないので、淋しいことはそりあ淋しいけれど、毎日、気持のよい朝夕を送っています。  しかし淋しいとは言っても、三年前でしたか、僕が病気をして十月ごろまでずっと一人で滞在していたことがありましたね、あの時のような山の中の秋ぐちの淋しさとはまるで違うように思えます。

「美しい村」堀辰雄(青空文庫)

末尾部(原文より)

 見上げると、その坂の中途にまだ転がっているらしいものがまるで花ざかりの灌木のように見えた。そして他のものがみんな立ち止まって、その一番最後に降りてきた少女の方をふり返っているのを、私はただぽかんとして眺めながら、その場を一歩も動こうとしないで突っ立っていた。そうして私は毎朝のようにこの坂を昇り降りしているあの跛の花売りのことをひょっくり思い浮べ、あいつはまた何だってこんなあぶなっかしい坂道をわざわざ選んで通るのだろうかしらと、全然いまの場合とは何んの関係もないようなことを考え出していた。……

「美しい村」堀辰雄(青空文庫)

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