若い木霊(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
春の胸さわぎと鴾の火
- 幻想
- 文字数
- 3,638字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治の童話。春先の丘を歩く若い木霊が、蟇や桜草の言葉から「鴾の火」ということばを知り、鴾という鳥にだまされて奇妙な桃色の世界へ飛び込む。胸が高鳴る春のよろこびと不安が、すきとおる色彩の描写で語られる。冒頭の原稿数枚が欠けた未定稿ながら、春の高揚感を描く賢治の感覚がよく表れている。
あらすじ
若い木霊は、雪の消え残る明るい枯草の丘を歩きながら、空気のなかに何かがふるえているのを感じる。柏の木や栗の木に、もう春だから起きろと声をかけるが、木々は眠ったままで、木霊は栗の木に寄生するやどり木にも冷たく当たる。窪地では蟇が「鴾の火だ、空だって碧くはない、桃色のペラペラの寒天だ」とつぶやくのを聞き、かたくりや桜草がささやく春の言葉を聞くうちに、木霊の胸は高鳴り、息は熱くなる。丘の上を飛ぶ桃色の羽の鳥を、木霊は鴾だと知り、その火を分けてほしいと追いかける。鴾は桜草の群れの中の炎のなかへ木霊を導き、木霊が飛び込むと、そこは桃色の寒天の空と青い草、怪しい花の咲く奇妙な世界で、暗い木立から怒鳴り声が聞こえる。鴾は「好きなだけ持っておいで」と言うが火はどこにも見えず、やがて青い顔の大きな木霊が現れたので、若い木霊は逃げ出す。もとの丘に戻ると、やどり木が「鴾にだまされた」と笑い、若い木霊は顔のほてりをごまかして栗の木に声をかけ、まだ少し早いと言って自分の木へ駆け戻る。
登場人物
- 若い木霊 春の丘を歩く木霊。胸のざわめきを抱えて鴾を追う
- 鴾 桃色の羽の鳥。鴾の火を約束して木霊を不思議な世界へ導く
- やどり木 栗の木に寄生する黄金色の小さな葉のかたまり。木霊を笑う
冒頭部(原文より)
「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」 それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩いて行きました。
「若い木霊」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「ふん、まだ、少し早いんだ。やっぱり草が青くならないとな。おい。小こ、さよなら。」若い木霊は大分西に行った太陽にひらりと一ぺんひらめいてそれからまっすぐに自分の木の方にかけ戻りました。 「さよなら。」とずうっとうしろで黄金色のやどり木のまりが云っていました。
「若い木霊」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
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