夜明けの辻(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
東へ東へと去ってゆく
- 歴史
- 青春
- 文字数
- 42,825字
- 読了目安
- 約1時間26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
国家老の屋敷で開かれた講演の場に集まった、老職から乱暴者、婦人までの四十人あまり。山県大弐の学説をめぐる議論が、やがて藩を揺るがす政治の渦へと変わってゆく。功刀伊兵衛の言葉の意味を、若い道之進が理解するのは事が起きたあとであった。松林で鳥が祝福の声をあげはじめる夜明けの場面で幕を閉じる長編。
あらすじ
功刀伊兵衛が入って行ったとき、そこではもう講演が始まっていた。二十畳と十畳の襖を払った部屋に、ざっと四十人ばかりの聴講者が詰めかけている。国家老の津田頼母をはじめ老職たち、こんな人がと思われる老人、学問とは縁の遠い若手の乱暴者たち、そして下座の隅には婦人が四五人熱心に傾聴していた——物語はこの異様な光景から始まる。語られているのは山県大弐の説である。……伊兵衛はその夜、大弐の説を罵倒して「山県どのはいまに殺されるぞ」と言った。若い道之進にはまるで謎のような言葉であったが、やがてその意味を知る日が来る。藩の内部では、届出のないまま当地へ来た七人の者を「脱藩私闘の名目で処置してこい」という密命が下されていた。「それは……大任でございます」と受ける者がある。学問と政治、忠と義、そして人が人を斬ることの意味が、若者たちの前に突きつけられてゆく。すべてが終わった夜明け、道之進は佐和と向き合う。「帰って来ます」——それが最後の言葉だった。彼は佐和の眼を瞶めたまま歩きだし、やがて足を速めたが、振り返るたびに二人の眼は熱く結びついた。道は下り坂になり、その姿は隠れてゆく。伊兵衛の去った道をまっすぐに、彼もまた東へ、東へと去って行った。陽はいよいよ高く、松林では鳥が祝福の声をあげはじめ、頂に雪をのせた山々はあさ緑の空の下に、もう微かに春の萌えを告げていた。
登場人物
- 功刀伊兵衛 大弐の説を罵倒した謎めいた男
- 道之進 伊兵衛の言葉の意味を後に知る若者
- 佐和 道之進を見送る女
- 津田頼母 講演の場を設けた国家老
冒頭部(原文より)
一の一 功刀伊兵衛がはいって行ったとき、そこではもう講演が始っていた。 二十畳と十畳の部屋の襖を払って、ざっと四十人ばかりの聴講者が詰めかけていた……下座の隅に坐った伊兵衛は、側にあった火桶を脇のほうへ押しやりながら、静かに周囲を見廻した。
「夜明けの辻」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
帰って来ます。 それが最後の言葉だった。道之進は佐和の眼を瞶めたまま歩きだした。やがて足を速めたが、振返るたびに、佐和の眼と彼の眼とは熱く結びついた……やがて道は下り坂になり、道之進の姿は隠れていった。伊兵衛の去った道をまっすぐに、彼もまた東へ、東へと去って行った。東へ……東へ。
「夜明けの辻」山本周五郎(青空文庫)
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