妖術(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
電車で出会う妖しい手品師
- ミステリ
- 恋愛
- 文字数
- 10,294字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
明治44年(1911)2月の日付をもつ泉鏡花の短編。春の雨がちの日、日本橋の電車で艶やかな女に目を奪われた保険会社員が、浅草の観音堂、待合の座敷へと誘われていく。聞き手に語られる体験談の形で、女の素性と、座敷で見せられる不思議な芸が描かれる。
あらすじ
春の雨まじりの日、日本橋通三丁目の電車停留所で、保険会社員の舟崎一帆は、運転手台から現れた艶やかな高島田の女に目を奪われる。女は一度降りかけてから車内に戻り、一帆の顔を見て、島田をうつむけて座席に隠れる。浅草行の電車は雷門に着き、突然の俄雨で人々は逃げ惑う。そのどさくさに女の姿は見えなくなるが、一帆が仲見世を歩いていくと、女が傘をさしかけてきて、相合傘で観音堂へ向かう。堂の廻廊で、女は「少々お持合わせは」と尋ね、買い物をしたいと言って一帆から紙幣を受け取る。長く待たされた一帆が、騙されたと思いかけたとき、女は何食わぬ顔で戻ってきて、「待たせてさ」と微笑む。二人は裏手の「大金」という料理屋の離れの座敷に落ち着く。一帆が名を尋ねると、女は「住所は提灯の中、名は娘」と答え、商売を問われて、手品師だと明かす。女は座敷の障子を開けて池に面し、手にした豌豆の花を池の船に投げ、銀の扇をひらめかせる。すると花は白い胡蝶に変わり、ひらひらと舞い、やがて数を増した。呆気に取られた一帆が気づくと、女の姿はもうなく、女中は「お車で、たった今」と告げる。
登場人物
- 舟崎一帆 保険会社に勤める男。電車で女に目を奪われる
- 娘手品の女 高島田に紺蛇目傘の、艶やかな女。浅草の観音堂の提灯に住むと名乗る
冒頭部(原文より)
むらむらと四辺を包んだ。鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧の艶な姿で、電車の中から、颯と硝子戸を抜けて、運転手台に顕われた、若い女の扮装と持物で、大略その日の天気模様が察しられる。 日中は梅の香も女の袖も、ほんのりと暖かく、襟巻ではちと逆上せるくらいだけれど、晩になると、柳の風に、黒髪がひやひやと身に染む頃。もうちと経つと、花曇りという空合ながら、まだどうやら冬の余波がありそうで、ただこう薄暗い中はさもないが、処を定めず、時々墨流しのように乱れかかって、雲に雲が累なると、ちらちら白いものでも交りそうな気勢がする。……両三日。 今朝は麗かに晴れて、この分なら上野の彼岸桜も、うっかり咲きそうなという、午頃から、急に吹出して、随分風立ったのが未だに止まぬ。午後の四時頃。
「妖術」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
時にそよがした扇子を留めて、池を背後に肱掛窓に、疲れたように腰を懸ける、と同じ処に、肱をついて、呆気に取られた一帆と、フト顔を合せて、恥じたる色して、扇子をそのまま、横に背いて、胸越しに半面を蔽うて差俯向く時、すらりと投げた裳を引いて、足袋の爪先を柔かに、こぼれた褄を寄せたのである。 フト現から覚めた時、女の姿は早やなかった。 女中に聞くと、 「お車で、たった今……」
「妖術」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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