妖怪年代記(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
三つの怪異を確かめに来た夜
- 怪奇
- 文字数
- 8,556字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
泉鏡花の怪談。擬古的な文語体で、金沢の私塾に寄宿した青年「予」が、かつて武家屋敷だったこの家に伝わる「血天井」「不開室」「庭の竹藪」という三つの怪異の噂を確かめようとする。屋敷の主人が妾を無残に殺したという因縁話から始まり、夜ごとの泣き声や闇に現れる女の姿に追い詰められていく語り手の恐怖を描く。初出年月は図書カードに記載がない。
あらすじ
加賀金沢の古寺町にある松川の私塾は、もと旗野という千石取りの屋敷で、血天井、開かずの間、庭の竹藪という三つの不思議があった。旗野の主人は侍女お春の讒言を信じて妾のお村を斬り、残酷な折檻の末に殺した。お春は蜘蛛を恐れていたが、お村の七七日の夜に血天井の部屋に迷い込んで死に、主人もやがて狂死して家は断絶したという。怪異を見たくて入塾した山田は、庭の竹藪に分け入って紅いものを見て怯える。その夜、雪のように白い裸の婦人が枕もとに現れて衾に入ろうとし、翌夜は女の泣き声と自分の名を呼ぶ声に耐えかねて、塾主の松川の寝間へ逃げ込む。ところが泣き声はその部屋の中からしており、松川と母と妻が、世間に隠してきた十二歳の妹お長を叱り、折檻していたのだった。山田は怪異の声の主を悟る。
登場人物
- 山田(予) 怪異を確かめるために松川私塾へ入った寄宿生
- 松川 英・漢・数学を教える塾の主人
- お長 松川の妹。兄たちから折檻を受けている
- お村 旗野の妾。無残に殺されたと伝わる
冒頭部(原文より)
予が寄宿生となりて松川私塾に入りたりしは、英語を学ばむためにあらず、数学を修めむためにあらず、なほ漢籍を学ばむことにもあらで、他に密に期することのありけるなり。 加州金沢市古寺町に両隣無き一宇の大廈は、松山某が、英、漢、数学の塾舎となれり。旧は旗野と謂へりし千石取の館にして、邸内に三件の不思議あり、血天井、不開室、庭の竹藪是なり。
「妖怪年代記」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
今姉さんと呼ばれしは松川の細君なり。「これまで幾度謝罪をして進げましても、お前様の料簡が直らないから、もうもう何と謂つたつて御肯入れなさらない、妾が謂つたつて所詮駄目です、あゝ、余り酷うございますよ。少し御手柔に遊ばせ、あれ/\それぢやあ真個に死んでしまひますわね、母様、もし旦那つてば、御二人で御折檻なさるから仕様が無い、えゝ何うせうね、一寸来て下さい」と声震はし「山田さん、山田さん」我を呼びしは、さては是か。
「妖怪年代記」泉鏡花(青空文庫)
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