指環(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
汽車の中の指環をめぐる対話
- ミステリ
- 文字数
- 2,489字
- 読了目安
- 約5分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「新青年」に発表した掌編。汽車で乗り合わせたことのある二人の男が、再会して交わす会話だけで物語が進む、対話形式のミステリである。かつて車中で起きた指環の紛失事件をめぐって、二人のやりとりは意外な真相へと導かれていく。わずか数ページのうちに鮮やかな逆転を仕込んだ、乱歩初期の技巧的な小品である。
あらすじ
「失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね」——二人の男が、そう言葉を交わしはじめる。一人(A)が、以前二人が乗り合わせた汽車の中で起きた「災難」を持ち出す。あのとき、蜜柑の袋を提げて隣の席に来た男(B)は、妙に馴れ馴れしかった——という思い出話が、しだいに一つの事件の輪郭を描き出していく。汽車の中で起きた、ある指環をめぐる紛失。Aは、その真相を問いつめる。やがてBは、笑いながら種明かしをする。実は、相手の煙草入れの底にそっと指環をしのばせ、隙だらけの相手からまんまと取り戻していた——というのだ。すべては対話だけで進みながら、最後の一言でくるりと様相が反転する。乱歩が対話形式に挑んだ、機知に富んだ掌編ミステリである。
冒頭部(原文より)
A 失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね。 B これは御見それ申しました。そういえば、私も思い出しましたよ。やっぱりこの線でしたね。 A あの時は飛んだ御災難でした。 B いや、お言葉で痛み入ります。私もあの時はどうしようかと思いましたよ。
「指環」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
B 嘘だと思われちゃ癪だから、じゃ話すがね。怒っちゃいけないよ。実はね、おめえが腰に下げていた煙草入れの底へソッとしのばせて置いたのさ。それにしても、あの時お前の身体はまるで隙だらけだったぜ。ハハハハハハ、エ、いつその指環を取戻したかって、いうまでもねえ、おめえが、早く蜜柑を拾いに行こうと、大慌てで開札口を出る時によ。
「指環」江戸川乱歩(青空文庫)
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