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歪んだ窓(山川方夫)のあらすじ・登場人物

お姉さんの幸福のために

  • ミステリ
  • 家族

山川方夫 1963年(昭和38年)7月 「龍生」

文字数
3,198字
読了目安
約6分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

雨の日、レーン・コートを出して外出の仕度をする姉を、彼女は部屋の隅から目を光らせて見ている——山川方夫が「龍生」に発表した短編。姉に近づく佐伯という男は妻子ある食わせものだ、あの男の下心は明白だ。大好きな姉の幸福のためなら自分などどうなってもいい。長雨に洗われた風景が歪んで揺れている。

あらすじ

「いいわね? じゃ、ちゃんとおとなしくお留守番をしててね」。そういって出て行く姉の顔に、彼女は一瞬うろたえた色がはしるのを見のがさなかった。やっぱりそうなんだわ。お姉さん、あの男と結婚するつもりなんだわ。——佐伯という男が訪ねてくるようになって三月近くになる。定期的な訪問、姉への頼られている男の目つき、妹へのご機嫌とりめいたやさしすぎる態度。あとをつけて、駅前の喫茶店でこそこそと真剣に話しあっているのも知っている。それに、彼のことを口にするたび姉が見せる、すまなさそうな苦しげな表情。……小暗い部屋の隅で、彼女は声をたてて泣きつづけた。窓に映る自分の顔を見る。青黒く生気のない陰気な顔。色白で大柄な美しい姉とは似ても似つかぬ不器量な顔。二十三にもなるのに、発育不全の中学生みたいな固く平たい胸。もし私がお姉さんのような美人だったら、しっかり者の姉を二十六の今日まで独身のままいさせ、佐伯なんてあんな悪い男を近づけさせることもなかったのに。あの男には妻も子もいるのだ。昨日、この窓から見たのだ。私というコブが縁談の邪魔になっていた、その弱みと焦りにつけこまれたんだわ。……みんな私が悪い。だから、私の大好きなお姉さんのためだったら、私なんかどうなったってもいい。今日こそその証拠をみせてあげる。彼女は台所へ走り、鋭いフレンチ・ナイフを脇の下にかくして窓に寄った。雨に歪んで流れる風景のなかに、二人があらわれるのを待ちつづけた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 朝からの雨が窓を濡らしている。アパートの小暗い部屋の中で、レーン・コートを出し手ばやく外出の仕度にかかる姉を、彼女は隅っこから目を光らせて見ていた。 「いいわね? じゃ、ちゃんとおとなしくお留守番をしててね。すぐ帰ってくるから」  姉はいった。彼女は答えない。が、姉はそんな妹には、すっかり慣れっこになってしまっていた。そのまま扉に向った。

「歪んだ窓」山川方夫(青空文庫)

末尾部(原文より)

「いいえ、それはまだ気づいてはいないと思いますわ。でも、近ごろはだいぶ症状が悪いようで、昨夜なんか一晩じゅう泣いておりましたの」 「なるほど。梅雨どきにはああいう病気は急激に悪化しますからね。……なにしろ、近ごろは僕を見る目つきも、普通じゃない。あきらかに警戒しちゃっている」 「あの、やっぱり妹は病院へ入れるべきなんでしょうか。……私たち、姉妹二人きりですし、なにか可哀そうで……」 「お気持ちはよくわかります。でも、そろそろあなたも決心をなさるときだと思いますよ。……ま、今日、これから寄ってみて、それをはっきりと決めることにしましょう」

「歪んだ窓」山川方夫(青空文庫)

原文を読む

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