湯島詣(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
天神の梅に祈る芸者の恋
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 62,075字
- 読了目安
- 約2時間4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
湯島天神の界隈を舞台にした恋愛長編。1899年(明治32年)11月、春陽堂から書き下ろしで刊行された。華族の婿となった学士・神月梓と、芸者・蝶吉の情。身分と世間の義理に阻まれながら深まる二人の仲を描く。のちの「婦系図」に通じるモチーフを備えた、鏡花前期の代表作の一つ。
あらすじ
仙台の塗物師の子に生れ、母を芸妓に持った神月梓は、苦学の末に学士となり、留学の学資を送りつづけた玉司子爵の令嬢・竜子に迎えられて華族の家を嗣いだ。だが彼の心は、寄宿舎時代から通いつめた湯島天神の界隈と、そこで縁を結んだ芸者・蝶吉のもとにある。蝶吉もまた、京の商家の娘だった母を苦労のうちに亡くし、幼い頃から怨みと僻みを胸に育った女であった。友人たちは梓の身を案じ、世間は二人を裂こうとする。そのうえ蝶吉は、抱主の手で堕胎させられていた事実を突きつけられ、半狂乱で家を飛び出していく。
登場人物
- 神月梓 仙台の塗物師の子から学士となり、玉司子爵家の婿に迎えられた青年
- 蝶吉(松山峰子) 湯島の芸者。梓と深い仲にあり、苦労のうちに育った女
- 竜子 玉司子爵の令嬢で梓の妻。かつて仏文の手紙とともに学資を送りつづけた
- 柳沢時一郎 梓の信友。寄宿舎時代からの友人
- 大和屋の姐さん 蝶吉の抱主。蝶吉に堕胎を強いる
冒頭部(原文より)
「紅茶の御馳走だ、君、寄宿舎の中だから何にもない、砂糖は各々適宜に入れることにしよう。さあ、神月。」 三人の紅茶を一個々々硝子杯に煎じ出した時、柳沢時一郎はそのすっきりと脊の高い、緊った制服の姿を籐の椅子の大きなのに、無造作に落していった。
「湯島詣」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
墓は、神月梓、松山峰子、と二ツならべて谷中の瑞林寺にある。 弔うものは、梓が生前の三個の信友と、いま一人、忍々に音信るる玉司子爵夫人竜子であるが、姫は一夜、墓前において、ゆくりなく三人の学士にあった時、哀を請うもののごとく、その自分がここに詣ずることは、固く秘密を守って世にあらわれぬよう、名にかけて誓われたいといって跪いたのである。哲学者は直ちに霊前に合掌してこれを誓い、柳沢は卵塔の背後に粛然として頷いたが、一人竜田は、柳沢の胸にその紅顔を押当てて落涙しつつ頭を掉った。星はその時煌いたであろう。いかに、紫か、緑か、燦然として。
「湯島詣」泉鏡花(青空文庫)
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