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湯島の境内(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

湯島天神で語る別れの宵

  • 恋愛

泉鏡花 1914年(大正3年)10月

文字数
8,660字
読了目安
約17分
表記
新字新仮名
舞台
  • 東京都

この作品について

『婦系図』の一場面を泉鏡花自身が戯曲にした一幕物。大正3年(1914)10月の日付をもつ。冴えかえる春の宵、湯島天神の境内で、早瀬主税が芸者上がりの妻お蔦に、恩師の命で別れなければならないと告げる。月夜のなかで交わされる二人の言葉は、『婦系図』のなかでもよく知られた別れの場面である。

あらすじ

冴え返る春の夜、雨が雪に変わった湯島天神の境内。早瀬主税は妻のお蔦と二人でお参りに来る。内縁の妻であるお蔦は、はじめて一緒に外へ連れ出してもらえたことを喜び、亡き母の墓参りをしたことを話す。しかし主税は、新聞に出された噂の件でも気をふさいでいる。お蔦が天神様の石段の下までお参りに行き、買い物をして戻ってくると、主税は「お前と別れなければならない」と打ち明ける。理由は、真砂町の先生に、女を棄てるか、自分を棄てるかと迫られ、主税が「女を棄てます」と誓ったからだった。お蔦は驚き、最初は死んでみせると言って取り乱すが、主税の苦しみを知ると、「男はそれで立ちました」と納得し、別れを受け入れる。主税が先生から預かった金を渡すと、お蔦は一度は拒むが、受け取る。主税は静岡へ、お蔦は髪結いの修業を積むため八丁堀へ行くことになる。二人は手を取り、最後に左右に分かれて歩き出す。

登場人物

冒頭部(原文より)

お蔦 貴方……貴方。 早瀬 ああ。(と驚いたように返事する。) お蔦 いい、月だわね。 早瀬 そうかい。 お蔦 御覧なさいな、この景色を。 早瀬 ああ、成程。 お蔦 可厭だ、はじめて気が付いたように、貴方、どうかしているんだわ。 早瀬 どうかもしていようよ。月は晴れても心は暗闇だ。 お蔦 ええ、そりゃ、世間も暗闇でも構いませんわ。どうせ日蔭の身体ですもの。…… 早瀬 お蔦。(とあらたまる。) お蔦 あい。 早瀬 済まないな、今更ながら。

「湯島の境内」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

お蔦 切通しを帰るんだわね、おもいを切って通すんでなく、身体を裂いて分れるような。 早瀬 (頷く。) お蔦しおしおと行きかかり、胸のいたみをおさえて立留る、早瀬ハッと向合う。両方おもてを見合わす。 実に寒山のかなしみも、かくやとばかりふる雪に、積る…… 幕外へ。 思いぞ残しける。 男は足早に、女は静に。 ――幕――

「湯島の境内」泉鏡花(青空文庫)

名文

月は晴れても心は暗闇だ。

早瀬主税の台詞。お蔦に別れを告げねばならない夜、晴れた月と暗い胸の内を対比させた、芝居がかった名調子。

切れるの別れるのッて、そんな事は、芸者の時に云うものよ。……私にゃ死ねと云って下さい。蔦には枯れろ、とおっしゃいましな。

別れを切り出されたお蔦が主税に返す言葉。『婦系図』の「湯島の境内」の場面として知られ、新派の名台詞として広く親しまれた。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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