かえるの王さま(グリム兄弟)のあらすじ・登場人物
泉から来たかえるの約束
- 幻想
- 翻訳
- 文字数
- 4,990字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
グリム兄弟『子どもと家庭のメルヒェン集』(1812年初版)の巻頭に置かれた第1話(KHM1。原題は「かえるの王さま、または鉄のハインリヒ」)を、児童文学者の楠山正雄がやさしい日本語に訳したもの(小峰書店『世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人』所収)。森の泉に金のまりを落として泣いている末のおひめさまの前に、一ぴきのかえるが顔を出し、まりを拾ってくるかわりに友だちにしてほしいと持ちかける。もとの話はヴィルヘルム・グリムが1807〜08年ごろカッセルで聞き書きしたもので、版を重ねるたびに描写が書き足された。戸口でかえるが唱える呼びかけの歌を、楠山は「いちばん下の おひめさま」と七五の調子で日本語に移している。
あらすじ
むかし、ある王さまに美しいおひめさまがたくさんいて、なかでも末のおひめさまはお日さまも驚くほど美しかった。おひめさまは森の泉のそばで金のまりをなげて遊ぶのが好きだったが、ある日まりを泉に落としてしまい、泣きだす。そこへ一ぴきのかえるが現れ、友だちにして、同じテーブルで食べさせ、同じ床で眠らせてくれるならまりを拾ってくると言う。おひめさまは心の中でかえるをばかにしながら約束するが、まりを受け取るとそのまま城へ逃げ帰ってしまう。あくる日、食事の最中にかえるが戸をたたき、約束を守ってほしいと歌で呼びかける。王さまは、いちど約束したことは守らなければならないとさとし、おひめさまはしぶしぶかえるを椅子に、テーブルに上げ、金の皿でいっしょに食べる。さらに寝床へ入れろとせがまれ、おとうさまに言いつけると言われたおひめさまは、腹を立ててかえるを壁にたたきつける。するとかえるは、美しい目をした王子の姿に変わった。王子は悪い魔法つかいの女に呪われてかえるにされていたのだと語り、王さまのおぼしめしでおひめさまのむこと決まる。あくる朝、八頭だての白馬の馬車が迎えに来る。主君がかえるにされた悲しみで胸がはりさけないよう鉄のたがを三本巻いていた忠義もののハインリヒは、主君が人間に戻った喜びで胸が開き、帰り道でたがが一本ずつはじけ飛んでいった。
登場人物
- おひめさま 王さまの末の娘。泉に金のまりを落とし、かえると約束する
- かえる まりを拾うかわりに友だちにしてほしいと頼む
- 王さま おひめさまの父。約束は守るものだと娘をさとす
- ハインリヒ かえるにされた主君を案じる忠義な家来
冒頭部(原文より)
むかしむかし、たれのどんなのぞみでも、おもうようにかなったときのことでございます。 あるところに、ひとりの王さまがありました。その王さまには、うつくしいおひめさまが、たくさんありました。そのなかでも、いちばん下のおひめさまは、それはそれはうつくしい方で、世の中のことは、なんでも、見て知っていらっしゃるお日さまでさえ、まいにちてらしてみて、そのたんびにびっくりなさるほどでした。 さて、この王さまのお城のちかくに、こんもりふかくしげった森があって、その森のなかに一本あるふるいぼだいじゅの木の下に、きれいな泉が、こんこんとふきだしていました。あつい夏の日ざかりに、おひめさまは、よくその森へ出かけて行って、泉のそばにこしをおろしてやすみました。そして、たいくつすると、金のまりを出して、それをたかくなげては、手でうけとったりして、それをなによりおもしろいあそびにしていました。 ある日、おひめさまは、この森にきて、いつものようにすきなまりなげをして、あそんでいるうち、ついまりが手からそれておちて、泉のなかへころころ、ころげこんでしまいました。おひめさまはびっくりして、そのまりのゆくえをながめていましたが、まりは水のなかにしずんだまま、わからなくなってしまいました。泉はとてもふかくて、のぞいてものぞいても、底はみえません。
「かえるの王さま」グリム兄弟(青空文庫)
末尾部(原文より)
さて馬車がすこしはしりだしたとおもうころ、王さまのお耳のうしろで、ぱちり、ぱちり、なにかはじける音がしました。わかい王さまはそのとき、うしろをふりかえっていいました。 「ハインリヒ、馬車がこわれるぞ。」 「いいえ、いいえ お殿さま、 あれは馬車では ござんせぬ。 せっしゃのむねに はめたたが。 殿さま、げえろにならしゃって、 ぎゃあぎゃあ、泉でなかしゃるで、 はりさけそうな このむねを、 むりにおさえた そのたがが。」 それでも、ぱちり、ぱちり、また二どもはじける音がしました。わかい王さまは、そのたんびに馬車がこわれるのではないかとおもいました。けれども、それはやはり、ご主君がにんげんにかえって、たのしい日をおくられることになったので、ふさがっていたハインリヒのむねが、ひらけたため、胸のたががはれつして、とびちる音でございました。
「かえるの王さま」グリム兄弟(青空文庫)
名文
むかしむかし、たれのどんなのぞみでも、おもうようにかなったときのことでございます。
グリム童話集の巻頭を飾る『かえるの王さま』の書き出し。願いがかなった昔という一文で、魔法の世界へ導き入れる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。
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