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落穴と振子(ポー)のあらすじ・登場人物

闇の牢獄で迫る刃

  • 怪奇
  • 翻訳

ポー 訳者 佐々木直次郎 1931年(昭和6年)9月

文字数
17,273字
読了目安
約35分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

ポーが1842年に刊行された年刊誌『ザ・ギフト』(1843年版)に発表した短編「The Pit and the Pendulum」を、佐々木直次郎が訳したもの(第一書房『エドガア・アラン・ポオ小説全集』第1巻、1931年。同全集での題は「穽と振子」)。スペインのトレードで宗教裁判にかけられ、死刑を宣告された「私」が、光の一筋もない地下牢で目を覚ます。手探りで壁をたどって牢の広さを測ろうとする場面から、気絶と覚醒をくり返す意識の揺れを一人称で細かくたどり、闇の中の恐怖と拷問の仕掛けをじりじりと描いていく。冒頭には、パリのジャコバン・クラブ跡に建てられる市場の門に刻むために作られたというラテン語の四行詩が掲げられている。

あらすじ

スペインのトレードで宗教裁判にかけられ、死刑を宣告された「私」は、その場で気を失う。気がつくと、そこは真っ暗な地下牢だった。「私」は手探りで壁伝いに歩き、着物の裾を裂いた布を目印に牢の広さを測ろうとするが、疲れて倒れ眠りこむ。目覚めて傍らのパンと水をとったあと、今度は牢の中を横切ろうとして布切れに足をとられて転び、顔のすぐ先に、底に水をたたえた深い円い落穴が口を開けていることに気づく。偶然の転倒のおかげで、闇の中の穴に落ちる運命を免れたのだった。薬入りの水を飲んで眠らされた「私」が次に目を覚ますと、硫黄色の微光の中で、低い木の台に革紐で縛りつけられていた。天井には時の神の絵があり、その手から下がる巨大な振子が揺れている。振子の先は剃刀のように鋭い三日月形の刃で、往復のたびに少しずつ下へ降りてきて、やがて「私」の心臓の上を切り裂くように仕組まれていた。何日とも知れない恐怖の末、刃が胸の数インチ上まで迫ったとき、「私」は自分を縛っているのが一本の長い革紐だけだと気づく。残った脂っこい肉を紐に塗りつけて身じろぎもせずにいると、井戸から上がってきた無数の鼠が群がって紐を噛み切り、「私」は刃が胸に触れたところでかろうじて台からすべり出た。とたんに振子は天井へ引き上げられ、「私」は一挙一動が見張られていることを知る。やがて鉄の壁が灼熱しはじめ、壁に描かれた悪鬼の絵が赤く輝き、さらに四角い牢が菱形に押し縮められて、「私」は落穴の縁へと追いつめられていく。足場を失い、絶叫して穴へ落ちかけたその瞬間、喇叭の響きとともに壁が退き、一本の腕が「私」をつかんだ。ラサール将軍の率いるフランス軍がトレードに入城し、宗教裁判所は敵の手に落ちたのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 私は弱っていた、――あの長いあいだの苦痛のために、死にそうなくらいひどく弱っていた。そして彼らがやっと私の縛めを解いて、坐ることを許してくれたときには、もう知覚が失われるのを感じた。宣告――恐ろしい死刑の宣告――が私の耳にとどいた最後のはっきりした言葉であった。

「落穴と振子」ポー(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そしていまや菱形は、なにも考えるひまを与えないくらいの速さでますます平たくなってきた。その中心、つまりその幅の広いところは、大きく口を開いているあの深淵の真上であった。私はたじろいだ、――が迫ってくる壁は抵抗できないように私を前へ押しすすめた。とうとう焼けこげて悶えくるしむ私の体には、もう牢獄の堅い床の上に一インチの足場もなくなった。私はもうもがかなかった、が私の苦悶は、一声の高い、長い、最後の、絶望の絶叫となってほとばしった。私は自分が落穴のふちへよろめきよったのを感じた、――私は眼を逸らした――  がやがやいう人声が聞えた! 多くの喇叭の音のような高らかな響きが聞えた! 百雷のような荒々しい軋り音が聞えた! 炎の壁は急にとびのいた! 私が失神してその深淵のなかへ落ちこもうとした瞬間に、一つの腕がのびて私の腕をつかんだ。それはラサール将軍の腕であった。フランス軍がトレードに入ったのだ。宗教裁判所はその敵の手に落ちた。

「落穴と振子」ポー(青空文庫)

名文

私は弱っていた、――あの長いあいだの苦痛のために、死にそうなくらいひどく弱っていた。

ポー『落穴と振子』の書き出し。宗教裁判で死刑を宣告された「私」の朦朧とした意識から、閉ざされた牢獄の恐怖が語られていく。

下へ――じりじり下へ、振子は這い降りてくる。私はその振子の横に揺れる速度と、下へ降りてくる速度とを照らしあわせて、狂気じみた快感を感じた。右へ――左へ――遠く広く――悪鬼の叫びをあげて! 私の心臓めがけて、虎のような忍び足で下へ!

縛られた「私」の上に、刃のついた振子が少しずつ降りてくる場面。ダッシュと反復で迫る緊迫した文体が、本作の山場をつくる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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