翻訳とは

分類
文体・技法
読み
ほんやく

外国語で書かれた作品を、原作の意味・表現に即して自国語へ移し替えること。原作の筋を借りて人物や舞台を自国に置き換える翻案とは区別され、西洋文学の本格的な移入が進んだ明治期に、近代文学の文体と詩情を大きく豊かにした。明治初年の翻訳は政治小説や啓蒙書が中心だったが、明治20年代に入ると文学作品そのものを味わう翻訳が現れる。二葉亭四迷がツルゲーネフの短編を訳した『あいびき』(明治21年)は、自然を写す精緻な口語文で国木田独歩・田山花袋ら後の自然主義の作家たちに深い影響を与えた。森鴎外は新声社の同人と訳詩集『於母影』(明治22年)を出して新体詩に新しい調べを与え、アンデルセンの長編を格調高い雅文体で移した『即興詩人』(明治25年〜)は、原作以上の名文とうたわれた。周到な訳文で「翻訳王」と呼ばれた森田思軒や、バーネットの『小公子』を口語で訳した若松賤子も、この時期の翻訳文体を切り開いている。とりわけ上田敏の訳詩集『海潮音』(明治38年)は、ヴェルレーヌやカール・ブッセらの西欧近代詩を流麗な調べで紹介し、日本の象徴詩運動に決定的な影響を与えた。永井荷風の訳詩集『珊瑚集』(大正2年)もこれに続く。翻訳は単なる紹介にとどまらず、訳者自身の文学として、日本語の表現そのものを鍛え広げる営みであり続けた。

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