無常観とは

分類
その他
読み
むじょうかん

この世のいっさいは移ろいやまず、とどまることがない――仏教に由来するその「無常」の感慨は、日本文学、とりわけ中世文学の根底を流れる基調をなした。相次ぐ戦乱と天災、権力の交代を目のあたりにした中世の人々にとって、無常は切実な現実であった。鴨長明は随筆『方丈記』を「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と書き起こして人と栖のはかなさを見つめ、軍記物語『平家物語』は「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」と、栄華を誇った平家一門の滅びを無常の調べにのせてうたいあげた。吉田兼好『徒然草』も「世はさだめなきこそいみじけれ」と述べ、この世の定めなさをかえって味わうべきものとして見すえた。移ろいゆくものにこそ美を見いだす無常観は、やがて中世の連歌や能の幽玄、近世の俳諧のわび・さびへと展開し、日本人の美意識と死生観を深く形づくった。

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